１２月の★ハッピーバースデー｜リアクション

１２月の★ハッピーバースデー

★相原まゆのＢＤ（冴木竜司）

　―――さあ、決戦だ。
　自室で冴木竜司は自分の身だしなみの最終チェックをしていた。今日はアホ毛１本も許されない。俺にとっては世界的偉人並みに大切な日なんだ。
　靴は汚れていない。持ち物も準備万端。おっと、１番大事な『愛』は大丈夫か？　……ふっ、有り余りすぎて俺の心から溢れちまってるぜ。まるで枯れない泉だな。
　竜司はだだ漏れの愛を隠そうともせず、猫鳴館を出発した。

　ピーンポーン。
　旧市街のある一軒家のインターホンが鳴る。「はいは～い」と可愛らしい声がして、ガチャリとドアが開いた。
「はいどちらさ……」
「まゆ先生ーーー！　お誕生日おめでとうございます！」
　竜司は愛を込め声高らかに叫んだ。ドアから出てきた相原まゆがその場に固まる。竜司は構わず口上を続けた。
「寝子島の水の妖精であり、俺達の天使である貴女の生誕祭、この冴木竜司、精一杯祝わせてもらいます！」
　そして竜司はうやうやしくまゆの前に跪き、片手を差し出し満面の笑顔で言った。
「という訳で俺と結婚してくださーい！」
　―――バタン！　竜司の鼻先で無情にドアが閉まる。
「どいひー！？　ちょっ、ちょっ、まゆ先生ー！　戻ってきてーーー！！」

「ひどいじゃないですか、まゆ先生。俺のガラスのハートが粉々です」
「うん、ちょっと邪悪な何かを感じたのよ……」
　再び戻ってきてくれたまゆの前で、竜司は口を尖らして抗議する。しかしすぐに笑って言った。
「まあ、冗談はさておき。改めまして……誕生日おめでとうございます、まゆ先生」
　さっと竜司は背中に隠しておいた可愛らしい花束をまゆに渡す。あら、とまゆの目が大きくなった。
「それだけがプレゼントじゃありませんよ！　……まずは……」
　竜司は白い箱をまゆの前に出し、蓋を開けた。
「じゃーん！　特製の誕生日ケーキです！」
「わ、凄い！　これ、どうしたの？　特注？」
　まゆの目がきらきらと輝く。そのケーキの上にはニャルキーがたくさんちりばめられ、可愛らしくデコレーションされていた。
「俺が愛するまゆ先生のために作ったんですよ！　いやぁ、久々でしたが結構いい出来だと自負してますよ、ええ」
　少しおどけて竜司が言う。
　まゆはしげしげとケーキを眺めていたが、ふとその顔を上げた。そして竜司を優しく見つめて言った。
「……嬉しいよ、ありがとう。大変だったでしょ」
「え？！」
　いつもと違う真正面からのまゆの礼に竜司は面食らう。確かにケーキ作りは簡単ではなかった。けれど、まゆの喜ぶ顔を思い浮かべて竜司は頑張ったのだ。何だかその一生懸命さや色々な気持ちがバレてる気がして、竜司は気恥ずかしくなってしまった。

「ま、まだあるんです！　これをどうぞ！」
　何だかいつもの調子を崩しかけた竜司は、努めて明るく今度は包装された小箱を差し出した。竜司に促され、まゆが開けてみると、中から時計が出てきた。
「防水加工済み、スポーツウォッチ機能付きです。まゆ先生のお供するにはこれくらいの機能がないと」
　まゆは竜司の顔と手元の時計を何度も見比べる。そんな彼女に竜司はへへと笑った。
「本当は結婚指輪を贈りたかったんですが……実用的な物の方がいいかと思いまして」
「指輪は前お断りしたでしょ、ほんとにもう……。何でこんなにしてくれるのかしらね」
　困り顔の中にほんのちょっとの嬉しさを滲ませ、まゆが竜司を見る。

　竜司の目が意外そうに大きくなった。まるで（何でそんな事訊くのだろう。そんな事、当たり前じゃないか）と言っている様だ。
　竜司は、胸を張り、大きな声でまゆに伝えた。
「それは勿論、尊敬する恩師であり大好きな人ですから！」
　―――いつもおちゃらけてる自分だけど。この想いだけは、真っ直ぐ伝わりますように。

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