１２月の★ハッピーバースデー｜リアクション

１２月の★ハッピーバースデー

★早川珪のＢＤ（綾辻綾花）

　寝子島高校の図書室は、閉室時間を過ぎていた。窓硝子に映る外の景色はもう大分色味も失い、暗くなっている。
　室内では図書委員の綾辻綾花と、司書教諭の早川珪が本日最後の片付けをしていた。
「綾辻さん、そろそろ終わりにしようか」
　書棚で本の整理をしていた綾花に、珪が声をかける。
「はーい」
と可愛らしい声がして、パタパタと綾花が戻ってきた。
「いつも最後まで悪いね、綾辻さん…………どうしたの？」
　綾花にねぎらいの言葉をかけていた珪の言葉が止まる。何だか綾花がそわそわとしていたのだ。
　すると綾花がカウンターに置いてあった自分の鞄から、何かを取り出した。

「珪先生、誕生日おめでとうございます！」

　パーン！
　派手な音がしてクラッカーが鳴る。シュルシュルシュル～と細いラメのテープが何本も飛び出して、すだれの様に珪の頭にかかった。
「え……？　綾辻さん？」
　突然の出来事に珪は事態が飲み込めない。
「先生、今日誕生日ですよね？　お祝い、しようと思って……」
　そこでクスッと綾花が笑ってしまう。美形の珪がびっくりしながらカラフルなテープを纏う姿が、何だか可愛かったのだ。珪も自分の状態をまじまじと見る。
　２人は顔を見合わせると、思わずくすくすと笑い合った。

「いや、びっくりしたよ」
「ふふ、成功ですね」
　クラッカーはテープが本体についたままのタイプを用意していたので、片付けはすぐ終わる。珪もカラフルすだれから、いつものホスト風に戻っていた。
「それで……先生、プレゼントです！」
　綾花は両手で可愛くラッピングした包みを珪に差し出した。「開けていいかい？」という珪の言葉にこくんと頷き、その様子をドキドキしながら見つめる。
（だって、先生の事を想って作ったから……。ああどうしよう、喜んでくれるかな）
　緊張で、恋する乙女は息をするのも忘れるくらい。そんな乙女の様子に気付く事なく珪は包みを開けた。
「これは……。もしかして、綾辻さん手作りですか？」
　開いた包みの前で、珪の目が驚きで丸くなった。
　中身はカップケーキとブックカバーだった。カップケーキの上にはチョコで猫の顔が可愛らしくデコレーションされ、ブックカバーは赤地に黒猫のシルエットが描かれた、スタイリッシュな物だ。
　驚いている珪に綾花は赤くなりながら頷いた。
「珪先生はやっぱり黒と赤が似合うな、と思って……。カップケーキは甘さ控えめです。味見したから大丈夫だと思います」
　大人な珪へのプレゼントに、女子高生の綾花は一生懸命考えたのだ。子供っぽくならないように、喜んで貰えるように。
　それでも、カップケーキの猫の隣に小さくハートを描いたのは、綾花の可愛らしい自己表現だった。
　珪はしばらく綾花のプレゼントを見つめていた。そして上げたその顔は……笑顔だった。
「ありがとう、綾辻さん。ありがたく頂戴するよ」
「……はい！」
　珪の言葉に綾花は頷く。
　どうしてだろう。私が珪先生をお祝いしてるはずなのに。先生の笑顔が嬉しくて……まるで私がプレゼントを貰ったみたい。
　珪の笑顔で綾花の胸はいっぱいになった。

　ちょっと遅くなってしまったからと、珪が猫鳴館の近くまで綾花を送ってくれた。
　２人で歩く帰り道。綾花は珪と色々な話をした。誕生日の思い出や、先生の興味のある物。もうすぐクリスマスだからと珪の欲しい物をさりげなくリサーチもしたりして。
　楽しそうに話す珪。彼が自分の方を振り向く度に何だか照れてしまい、猫鳴館に着くまでにぽかぽかになってしまった綾花だった。