１２月の★ハッピーバースデー｜リアクション

１２月の★ハッピーバースデー

★黒兎都のＢＤ

　１２月１５日。今日もいつも通りの日が過ぎる。黒兎都は学校を出るといつも通りに桜花寮に帰ろうと思って……その足を止めた。

（そういや今日は誕生日だったのー……）

　朝、ちょっと気付いていた。学校で日常に紛れた。自分は何も言わなかった。誰も何も言わなかった。学校が終わった。そして今に至る。
　突然の北風がピューッと吹き、立ち尽くす都のボサボサ髪を更に掻き乱して去っていく。
　都はまた黙々と歩き出した。
（後１０日遅ければケーキ買おうとはしゃごうと、クリスマスに便乗出来るのに……なんか空しい……）
　『えー、一纏めにされて嫌じゃん！』と思ったあなた。……彼女をそっとしておいてあげて下さい。
　しかし、「空しい」と言っていた都の足はなぜか商店街に向かっていた。そう、自分のバースデーケーキを買うためだ。
（何のかんの言いつつほぼ毎年ソロバースデーパーティーしてるんだからうちも大概よね、うん）
　『えー、毎年ソロ……』（以下略）。……だから彼女をそっとしておいてあげて下さい。自分の誕生を喜ぶのはいい事です。
「適当にケーキ買って紅茶買って、いつもどおりやりますかー」
　都は１人呟きながらケーキ屋に足を踏み入れた。

　そして、桜花寮の都の小さなテーブルには。
　ちんまりとしたホールケーキと、ペットボトルの紅茶が並べられていた。

（何のかんの言ってケーキには拘ってしまったの）
　ホールケーキはビターチョコで。都は甘い物は好きだが、生クリームが少し苦手なのだ。その上油っぽい甘さも駄目。ここのチョコは控えめな甘さに比例して油っぽさもなく、都のお気に入りだった。
　そしてこのケーキはカラフルなチョコペンで綺麗にデコレーションされていた。これは都お手製だ。ふと思いついてケーキと一緒にチョコペンを購入し、先程までむにゅむにゅ飾り付けをしていたのだ。ちょっと豪華になったケーキに都はふむふむと満足する。……さすがに『お誕生日おめでとう』プレートはつけなかったが。

　ケーキの上に立てた蝋燭に火を点け、都は口ずさむ。
「はっぴばーすでーとぅーみ～っ……ての」
　蝋燭の炎だけが都に応えるように、小さく揺れる。それを見て少し微笑むと、１人きりの部屋で都はふうっと蝋燭の火を吹き消した。

　誕生日らしき事が済んで、都はケーキを自分の皿に取り分ける。
（プレゼントだけは毎年爺様が送ってくれるからの、うむ）
　きっと明日には届くに違いない。そう考えながらもはぁと都は溜息をつく。
「……あ、そうだ」
　ちょっと思考回路が暗くなりかけた都が顔を上げた。そうだそうだ、この歳の目標をきめんとな！
「１７歳は……、ぬことフレンドリーになる！　うん！　絶対なる！　なれれば。……なれると、いいなぁ……」
　都の声が小さくなる。猫に避けられ続けた日々。気楽ながらもほんとはちょっぴり寂しいボッチバースディ。彼女の背中が徐々に小さく丸くなっていく。
　皿に自分で取り分けたバースデーケーキを１口食べ、都はぽそりと呟いた。
「来年は、誰かいわってくれる人いるといいなぁ……」

　きっと、大丈夫だよ。
　―――お誕生日おめでとう！