１２月の★ハッピーバースデー｜リアクション

１２月の★ハッピーバースデー

★葉利沢倫理子のＢＤ

　１２月１０日。この日で彼女葉利沢倫理子は１７歳になる。
　だから何だというのだろう。倫理子は寮の窓からぼんやりと外を眺めていた。

　本当はカウセリングを受けに行く日だったが、迷っていた。受けたところで何になるのか。過去は巻戻らないし、自分の心的外傷は永遠に癒えない。
　結局ギリギリまで迷っていた倫理子は、体調が思わしくないことを理由に休むことに決めた。嘘はついていない。学校も今日、それで休みを入れているのだから。

　椅子に座って窓硝子にもたれかかる。寮の窓から見るいつものこの風景。何年も何年もこの窓は変わらずに同じ風景を映し続けているのだろうか。……私の人生はこんなに変わってしまったのに。
　誕生日。楽しかった記憶は３年前までだ。１４歳の誕生日を迎えた日が、多分これまでの人生で１番素敵な瞬間。
　それからたった数日後だった。あの忌まわしい夜を迎えるなんて思わなかった。知りもしなかった。誰も、教えてくれなかった。

　―――あの夜から何もかもを失った。永遠に。

　３年の月日は何も変えやしない。あの出来事は永遠に存在するし、私はずっと穢され、壊れたままだ。
　今学校の授業は何をしているのだろうか。クラスメイトはどうしているのだろうか。
　昔の私のことを知らないクラスメイト。あのことを知らないクラスメイト。彼らの目に自分はどう映っているのだろう。病気がち？　神経質？　特段目立たない、地味な少女というのが表面的な印象だろう。
　もうそれでいいのだ。どうでもいいのだ。人も、自分も、世界も。

　誕生日というのはどういう日だろう。産まれたことを喜んでくれる日か。産まれたことを感謝する日か。
　両方なくなってしまった場合、誕生日というのは存在するのだろうか。
　今日は私の誕生日、のはずなのに。

　何もしない日。何もない日。
　ただぼんやりと窓の外を眺めるだけの日。
　いつも見慣れているはずのその風景が、今日は何だか遠く感じる。
　まるで映画のように、遠い、現実味のない景色。窓硝子のスクリーン。
　それとも……私の方が映画の中に閉じ込められてる？
　変えられない筋書の、終わらない映画の中に。

（だとすれば、私はどうしようもなく間抜けな登場人物ね）

　倫理子は硝子に手を伸ばした。
　観客は誰なのだろう。私はいつまで演技を続ければいいのだろう。

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