暴走世界からこんにちは｜リアクション

暴走世界からこんにちは

【暴力的虚偽声楽】

　雨寺凛は、ひとまず自分のろっこん――《加虐的虚偽声楽（読み：サディスティック・フェイク・ショウ）》を発動させるために自身の右耳に指先で触れる。
（――私の《加虐的虚偽声楽》は自分の声を好きな音や声に変える力。最近は進化して衝撃波も出せるようになった。暴走したらどうなっちゃうかわからないけど、とりあえず高橋くんを止めなくちゃ！）
　凛はすぅっと息を大きく吸い込むと、衝撃波が充分に届くまで距離を詰めると高橋くんに向けて大声を出した。

『にゃー！』『にゃー！』『にゃー！』

（ほえっ！？）
　何故か、その声は猫の鳴き声になっていた。
　一応、衝撃波となって飛んでいく効果は健在のようだ。
　猫の声は一塊の衝撃波となって高橋に襲い掛かる。
　しかし、高橋は身軽な動きでその衝撃をよける。
「ははっ！　面白い暴走だねっ！　猫の声だけじゃなくて、おならの音になったりはしないのかなっ？」
「……お、おならっ！？」
　高橋の言葉に、凛は顔を赤くする。
　凛は仮にも女の子なのであって、その口から発せられる音がおならの音になってしまうなど、想像しただけでゾッとする展開だ。
　しかし、そんな想像をしてしまったのがいけなかったのか。

『プー！』『プー！』『プー！』

（ほ、本当にそうなっちゃったよ……！？）
　あまりにあんまりな展開に、凛はもう涙目になる。
「あははっ！　あたると臭いそうな攻撃だね！　まあ、当たらなければ意味はないけどねっ！」
　高橋はサディスティックな笑みを浮かべて、衝撃波をよけながら挑発を続けていく。

『ムキーーーーッ！！』

　ついカッとなって発した凛の声にならない声が、ひとまわり大きな衝撃波となって高橋を襲ったとき、さすがの彼もわずかばかりに驚きに目を見開いた。

「……っ、と。随分と大きなものまで出せるんだね……？」

　高橋の意識が予想外の攻撃を放った凛に向けられる。
　そこに近石簾と尾鎌蛇那伊が追撃をしかける。
「おら、最初に喧嘩売った相手を無視して、よそ見してんじゃねぇぞっ！」
　簾が物陰からろっこんで巨大化したチェーンレンチをぶんまわす。
「……っ！？」
　複雑な軌道を描いて飛来するチェーンを避けようとして高橋が体勢を崩す。
　そこに蛇那伊が一気に至近距離まで踏み込むと、顎を目掛けて掌底を放つ。
「がっ……！？」
　がくん、と高橋が後ろによろめく。
　その刹那、ぽろりと顔から一枚黒い羽が抜けた。
（……手応えアリね。動きは身軽でも、あたれば効かないわけじゃない）
　蛇那伊はその一瞬の手応えに勝利への光明を見い出した。

「いけるわっ！　このまま一気に潰すわよ！」

「ぐ……、ふっ、ははっ……！　まぐれあたりが一発で、調子に乗らないで欲しいねっ！」

　高橋は不敵に笑う。
　だが、その笑い声からは先程まで確かに感じられたはずの余裕が消え失せていた。