暴走世界からこんにちは｜リアクション

暴走世界からこんにちは

【暴走するセカイ】

　気がつけば、多くのもれいび達が多面体状に切り分けられた世界に閉じ込められていた。

『いいか、もれいびども。そいつは本当に厄介だ。遠慮は要らねぇから殺す気でやれ』

　テオの声がもれいび達の頭に響いた。
「……殺す気って、でも、巻き込まれちゃったからにはなんとかしなくちゃ……！」
　雨寺凛は、テオの言葉を額面通りに受け入れることはできなかった。
　それでも、クローネの思惑通りにさせるわけにはいかないと戦いの決意を固める。
「あら。今度の刺客は随分と真正面からくるのね。いいわ。それならこちらも真正面から迎え撃ってあげる」
　尾鎌蛇那伊は、高橋くんと名乗るその少年を真っ直ぐに見据え、静かに呼吸を整えた。
「目の前で堂々と殺害予告とは恐れ入る。だが、真正面から戦いを挑んでくるやつは嫌いじゃない」
　橘勇は、小さく息を吐くと、目つきの悪さをカバーするためにかけている伊達眼鏡のブリッジをクイッと指で押し上げる。
「みんな気をつけろ。ろっこんを暴走させられたら、自分のろっこんでも何が起きるかわかんねぇぞ」
　近石簾は、真っ先に高橋と対峙した者として、仲間達にそう注意を促した。
「……暴走、ね。私のろっこんが暴走したところで、何か戦いに役立つとも思えないけれど」
　ふぅっと溜息を吐いたのは仙藤紫だった。彼女のろっこんは明らかに戦闘向きではなかった。
「どっかの怪人に感化でもされたんですかねぃ。まあ、常時暴走してるあっしにゃ、あんまり関係ありませんけどねぃ」
　骨削瓢はさして目の前の状況に驚くこともなく、ひひひっと奇妙な笑みをこぼしてみせた。
「よくわからないけど、とりあえず高橋くんを止めた方がいいのですー？」
　エロ・イーアールオーは本当によくわかっていない様子で首を傾げている。
「…………」
　大天使天吏は無言だった。ただ彼女の高橋を見つめる瞳には、その場にいる誰とも違う色の感情が見え隠れしていた。
（……クローネさんはどうしてあの男を選んだのかしら？　もれいびを殺すなら誰でも――私でもよかったはずなのに）
　天吏の意識は高橋を止めることよりも、その背後にいるであろうクローネの存在に傾いていた。
　彼らにはテオの声が聞こえていて、クローネの存在についても大なり小なりの予備知識があった。
　だが、その多面体状の世界にはクローネについて充分な知識のないものもいた。
「あれぇ～。なんだか変なところに来ちゃったよぉ？　なんか頭の中に変な声も聞こえてきたし……」
　小学生で無自覚なもれいびである曖浜瑠樹だ。
『ちっ……。無自覚なやつまで巻き込んじまったか』
　テオは顔をしかめると、瑠樹の前に躍り出て言った。
『おい、ガキ。いいか、よく聞け。信じられないかもしれないが、これは夢でもなんでもねぇ。これは――』
「わあ！　もしかして、にゃんこが喋ってたのぉ！　凄いねぇ！」
『聞けよ！』
　ぱぁっと顔を明るくする瑠樹に、テオが「フシャーッ！」と毛を逆立てる。
　そして、そんな様子を少し離れたところから見ている者もいた。
（……これはいったいどうなっているの？）
　今朝、寝子島にやってきたばかりの鼎八千穂であった。
　彼女はもはやもれいびですらなく、テオの声さえも聞こえていなかった。
　高橋はそんな個性豊かな面々を巨大なレンチの上から見下ろし、

「うんうん。個性って大事だよね。まあ、これから死ぬきみ達には関係ないけどさっ！」

　と、朗らかな、それでいて狂気に満ちた声で言った。

　かくして、謎の少年高橋との戦いが始まる。

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