進路相談、君等の道【２,３年生限定】｜リアクション

進路相談、君等の道【２,３年生限定】

●プロローグ

　５月某日。
　皐月晴れのさわかやな日だった。
　生徒たちの成績資料や進路希望調査票といった書類の束を携えた先生方が職員室から出てくる。
　本日の進路相談に当たって、２、３年の進路相談担当の先生方は、校長を交えて打ち合わせを行っていた。
　もっとも、校長・雨宮草太郎からはたったこれだけ。

「大事なことはたったひとつ。生徒たちひとりひとりが、私くらいの年になったとき幸せな人生だと思えるように。よろしく頼むよ。チャオ♪」

　２年体育科の相原まゆ先生はぱたぱたと足早に歩きながら、芸術科担当の若林沙穂先生に話しかける。
「ねー沙穂ちゃん。あたし、変な顔してない？」
「いえ、いつも通り可愛いですよ。どうしてです？」
「進路相談って何回やっても苦手なのよね。だって、あたしの一言で人生決まっちゃう子もいるかもしれないわけでさ。あたし、思いついた事、がーって言っちゃう方だし」
　彼女たちの後をのんびり追っていた普通科の牛瀬巧先生が、まゆ先生に声を掛ける。
「相原先生は、そのまんまでええよ。生徒に嘘つかんようにせんと、自分、保たへんで。ええこと言おうとせんへんほうがええ」
「そういうもんですか、牛瀬先生～」
　子リスみたいに目をくるくるとさせて、まゆ先生は牛瀬先生を見上げる。
「まあ、ワシはそうしとるちゅうだけやけどな」

　一方３年生の教室へと向かう芸術科担当のジャン・ポランスキー先生も不安げな顔をしていた。日本好きが高じて来日し、映画の録音マンから教師に転向したばかりのジャン先生は、日本の進路相談というものはもちろんはじめてだ。
「進路相談……って、ミーでもできますかネー」
「なんとかなるさ。この学校は、なになに大学に何人、とか、就職率がうんぬん、とかいう圧力もないしね。教師としても肩肘張る必要がない。ありがたいことだよ」
　着物の袖に腕を突っ込み、飄々と答えるのは永田孝文先生。
　体育科担当の吉田熊吉先生が、パーンと派手な音を立ててジャン先生の背中を叩く。ひょろひょろのジャン先生がふっ飛んでいきそうになる。
「ハッハッハ。『案ずるより産むが安し』！　先生らしく、どーんとぶつかって来てください！」
「ゴホゴホッ、ミーらしく、デスカ……」
「ユーらしく、ですよ。ハッハッハ」
　永田先生はふたりのやりとりをやれやれ、と見遣って教室のドアを開けた。
「さて、では今年も可愛い生徒たちの進路相談と参りましょうかね」

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