滅びの呪文の夢現｜リアクション

滅びの呪文の夢現

　押し寄せる風の中に小さく首を傾げて、八神修は手にしたデジタルカメラの画面を確認する。星空を撮る要領で星月に浮かび上がる空の城を撮ってはみたが、画面に写し取った空の城はどこか非現実的で、まるで風景写真に書き足した線画のよう。
(合成写真みたいだ)
　写真の出来栄えを冷静に断じつつ、望遠機能で空の城を確かめれば、それぞれの手段で空の城へと向かう人々の姿が見えた。
　肩に乗った愛猫のブラックがその名通りの黒く艶やかな毛並みに覆われた頬を修の頬に寄せる。好奇心いっぱいな金色の瞳が空の城へと向けられているのを目に、修は愛猫の背をそっと撫でる。
「方法を考えなくちゃな」
　呟くうち、纏った布を天女のようにたなびかせて空を渡ってゆく亜麻色の髪の少女を見つけた。

「鴇波！」
　飛行できるろっこんを持つ友人、鴇波羽衣の姿に、修は弾んだ声をあげる。呼びかけながら手を振る。
「修くん」
　空の城へ引き寄せられるように飛んでいた少女が、天女の舞うように布を翻す。楽しげな宙返りを見せ、波打ち際にふわりと降り立つ。
　ニャルタを背景に立つ少女が映画に出て来るヒロインの少女そのものに見えて、思わず修の唇に悪戯っぽい笑みが滲んだ。
「凄いぞ、ニャルタは本当に在ったんだ」
　空の城を仰いで言葉にしてから、照れ臭くなった。
「やっぱこの台詞だよな」
　照れ隠しに言いつつ、真っ直ぐに羽衣を見つめて頼む。
「鴇波の力が必要だ。頼めるかい？」
「もちろん！」
　頼りになる友達に頼りにしてもらえたことが嬉しくて、羽衣は大きく頷いた。礼を口にしつつ、修は羽衣がリーダーを務める寝子島飛行部隊のスカーフを手首に巻く。
「ニャルタへ飛ぼう！」
「これに掴まって！」
　少しおどけて言って見せる修に、羽衣もちょっぴり芝居がかった動作で羽織っていた布の端を差し出す。羽衣のろっこんは、羽織った布に飛行能力を付与するというもの。布を掴んでいれば、自在に空を飛ぶことが出来る。
　修が布の端を掴んだことを確かめて、羽衣はその場で跳躍する。空へ飛ぼうとして、
「あっ」
　手が滑った。布を手放してしまった。
「修くん――」
　続いて浮上した修がうっかり布を離して墜落していまいか、慌てて振り返って、羽衣は気付く。
(あたし、浮いたまま……)
　布をしっかり手にしたままの修も、浮かんでいる。
　今までは布がなければ飛べなかった。なのに今は、
(……大丈夫なんだ)
　己の身に宿ったろっこんが進化したことを悟って、羽衣は文字通り宙に跳ねる。
　少年と少女は、空へと舞い上がる。