二十三時二十三分に電波を介して飛び交う、それは滅びの言葉。
『ニャルス!』
テレビ画面の向こう、少女と少年が手に手を重ねてその言葉を口にする。瞬間、ふたりの手のうちに包まれた魔法の石が蒼白い光を――
ぶつん。
滅びの言葉と共、画面が消えた。電気が消えた。ねこったーに滅びの言葉を打ち込もうとスタンバイしていたスマートフォンの画面が消えた。
「っひゃあ?!」
見開いた目に何の光も捉えられず、スマホを握りしめたまま視線をぐるりに惑わせる。
空のどこかにあるという伝説の浮島『ニャルタ』を探す少年と少女の冒険を描いた長編アニメ映画の一場面を映し出していたはずのテレビ画面は暗転している。確か少年少女が魔法の石を手に滅びの言葉『ニャルス!』を口にした直後、ロボットと小動物が生きるばかりとなっていた廃墟の街も城もそのほとんどが崩壊し、真下の海の藻屑と消える場面に続くはずだった。
何年かに一度は放映される人気アニメ映画のその一場面にあわせて、ねこったーなどのサイトで同じように『ニャルス!』と叫び合うのが恒例になっていた。それによってサーバーへの負荷が容量を超え、サイトに繋がりにくくなってしまう、いわゆる『サイトが落ちた』状態になってしまうことも過去にはあったという。そのため今回の『ニャルス』現象に備え、ねこったー運営側がサーバーを強化したという噂まで立っていた。
その『ニャルス!』場面放映直後の突然のこの現象。
瞼を擦る。どきどきと轟く胸を抑えて立ち上がる。何の光も絶えた自室に目を凝らし、窓に引いたカーテンを開く。
隣家の窓も、通りの街灯も、いつもは光灯っているはずのどこもかしこもが、光を失って暗い。
同じように一切の光失くした隣人が賑やかに騒ぎ立てる物音を耳にして、思わず仲間を得た思いで呼びかける。幾度か呼びかければ、こちらの声に気付いた隣人ががらり、窓を開いた。
「今晩は。何だろうね」
「停電かな、神魂かな」
「『ニャルス』の後だったからびっくりしたよー」
「あ、私も『大空の町ニャルタ』見てた」
開いた窓越しに笑みと言葉を交わす。暗闇の中にあって隣人の表情が読み取れることにちらりと首を傾げて、
「……ああ」
夜の空、眩しいほどに煌きさんざめく星の海に気が付いた。
星の海を瞳に映して、白い息と笑みを零す。ちょっぴり不思議な空気の今なら、アニメの中でだけあるはずの『ニャルタ』の浮島さえ見える気がする。
空気は凍えるほどに冷たいものの、街に光が戻るまでの間、隣人と他愛ない話をしながらこうして空を眺めるのもいいかもしれない。
思いつきを言葉にするべく、唇を開けば、知らず堪え切れない笑みになった。楽しみにしていたアニメ映画『大空の町ニャルタ』の続きが見られなくなってしまったのは残念ではあるけれど――
こんにちは。
阿瀬 春と申します。
今回は、とある金曜日の夜の一幕をお届けにあがりました。
テレビで放送されていたアニメ映画の一場面に反応してかはわかりませんが、神魂の影響で島全体の光が消えてしまったようです。携帯電話もパソコンも、眩しい光を発する電化製品は何故か起動しません。
フツウに異常を来すとテオさんに判断されたいくつかの場所は、例によって『切り離されて』いるようです。
とはいえ、全ての電灯が消えているのはしばらくの間だけです。二~三時間が経てば、電光もパソコンもスマホも復旧しますし、月光や炎の光なんかは消えずに灯っているようです。それから例えば、ラジオやエアコンのような強い光を発さない電気製品は動くようです。
予期せぬ暗闇の中で、あなたはどんな行動をとりますか。
よろしければ、あなたのお話を聞かせてください。
少しだけですが、場所を用意しておきます。
その場に居合わせたり辿り着いたりしても、全く別の場所で別の行動を取られましても、どちらでも構いません。
■1■寝子ヶ浜海岸
金曜日の夜に放映中だったアニメ映画そのままに、星空に昇りゆく小さなお城と城下町、『ニャルタ』が見えます。今回の不思議現象を引き起こした神魂の影響のようです。
さすがに『切り離されて』いるので、寝子ヶ浜海岸近辺に行かなければそれを目撃することはできません。
もし空を翔けて行くことができれば、滅んだ古代王国の廃墟の町の探検が可能です。危険は何にもありません。
ただ、街に光が戻る頃(電気が消えてから二~三時間後)にはお城もお城の中にあった宝物も、全て崩壊して消えます。
■2■居酒屋『ハナ』の前
電気が消えてしまい、仕方なく軒先に七輪を出して露店営業をしています。
灯油ストーブも引きずり出して、小鍋で熱燗もつけています。
暖を求めて辿り着いたりでも、元々店に来ていたりでも、どちらでも大丈夫です。
■3■その他
この世界でできそうなことをご自由にどうぞ。
今回、『ハナ』の女将と店員以外のNPCの登場はありません。
それでは、ご参加、お待ちしております。