悠久の時の彼方へ～切り裂きジャックの嗤う夜｜リアクション

悠久の時の彼方へ～切り裂きジャックの嗤う夜

「―――長時間隠れていられそうな場所を見つけて……そこに隠れましょう」
『赤毛のジェニー』を連れた仙藤紫は、声を殺して言った。夜明けが来るか、ジャックが捕まったのが確認できるまで、どこかに息を潜めて待機するつもりだ。
「やっとパンを一つもらえたんだよ。早く帰ってやりたいんだけどねぇ」
　ジェニーの言葉に、紫は諭すように語りかける。
「ジェニーさん。子供が心配なのはわかるけれど、今の時分ならもう寝ていると思うわ」
「家には子供と、足の悪い爺様しかいないの。どうしても心配だわ」
「それなら尚更、子供のために無事に帰ることが大事よ。あなたにもしものことがあったら、あなたの家族はどうなるの？」
「そう、ねぇ……でも、どこに隠れるの？きょうび、どこの家も夜中に玄関開けることはないわ。ここらの空き家も大抵浮浪者の縄張りよ」
　霧が立ち込める中、紫は隠れ場所を求めて目を凝らした。どうにかして、この人と一緒に生き延びなければ―――

「あれは―――」
　捜索のため、イーストエンドを回っていた風雲児轟は、路上を歩く二つの人影を発見して足を止めた。二人とも女性のようだ。
「今までの経験上、言葉は通じるはずだ！」
　轟はためらいなく、通りの向こうに見える影に近づいていった。
「待つべ。彼らが切り裂きジャックである可能性は？」
一緒にいる鈴野海斗が呼び止める。
「ええ、慎重を期したほうがいいでしょう」
　常闇月も同意した。作戦と同時に、周辺地理も頭に叩き込むつもりで来ている。普段の様子とは違い、スイッチが切り替わっているとでも言うべき状態の海斗は頼もしく思えた。
「切り裂きジャックって、『ジャック』と呼ばれるくらいなら男だろう？なら、女の人はセーフだ！」
　轟の考えは、客観的には危険なものだ。だが、非力な女性をそのままにしておくのは、彼の美学には絶対反することだった。
「お前たち、出歩いてると危険だぞ！俺たちが護衛するから、ついてきな」
　紫は、轟たちの姿を見てほっとした。同じ現代人なら、ジェニーを託せる。
「よかった……この方を家まで送ってあげて」