悠久の時の彼方へ～切り裂きジャックの嗤う夜｜リアクション

悠久の時の彼方へ～切り裂きジャックの嗤う夜

「オラは、ひとまず八神さんの作戦に従うべ」
　鈴野海斗はそう言って、手に持っているスコップを見せた。
「雪かき途中で呼び出されたんで、スコップ持ってたのが幸いだべな。ジャックの情報も、あるだけありがたいべ」

　作戦が動き出している中、十朱此方は静かに考えていた。寝子島ではないどこかに飛ばされて、事情を飲み込んだのがついさっきのこと。逃げるか、切り裂きジャックを捕まえるかの選択を突きつけられているのだ。
「危険な戦いだから、君は隠れていても構わないよ」
　灯斗南は、一番年が若い此方を気にかけて言った。
「私は……」
此方は、言葉を切って少しの間考える。

　私は死ぬわけにはいかない。だって約束があるから。でも、私は逃げたくはない。
「戦う。逃げるのは性に合わないから」
　その言葉を言うのは勇気のいることだった。だが、自分の気持ちに向き合うならそう決断するしかない。
「大丈夫。これでも小さい頃から剣道はやっていたから」
　そう言って、此方は手にしていた竹刀を見せた。彼女の勇気を見て、斗南たちもそれ以上止めたりはしなかった。

「歴史に介入して、なんの迷いもなくいられるのは今回が始めてだったな。ジャック・ザ・リッパー……」
　斗南は、誰に言うともなしに呟く。
「当時は、娼婦に病気を移された客の恨みによる犯行だとか、帝政ロシアの工作員だとか諸説色々あったっけ」
「犯人に関しては、臓器などを正確に摘出していることから医者説、やんごとない地位の人物だったので逮捕されなかったなんて説もあるわ」
　ブリジット・アーチャーが、ミス研らしく知識を披露する。
「他にも、猟奇事件が続いているのに犠牲者が増え続けたことから、女性説なんてものまであるそうだけど……サイコな犯人なのは間違いないわね。19世紀の犯罪史に残る謎よ―――その真相に近づけるわけね」
「まあ、何にせよ迷いなく始末できる相手なのは間違いない」
　斗南の言葉に対し、修が言う。
「できれば、ジャックは生きて捕縛したい。背後に居る黒幕についても聞きたいからな」
　各自が出来ることは何かを確認し、一同は動き始めた。
「ここら辺の地理を把握しといた方が後々有利になるはずだべ。ちぃと危険だけど、一緒に来る人はいるべか？」
　海斗が仲間に呼び掛けた。囮を配置する場所を中心に、周辺地理は確認しておきたい。月と轟が同行することにした。