悠久の時の彼方へ～切り裂きジャックの嗤う夜｜リアクション

悠久の時の彼方へ～切り裂きジャックの嗤う夜

　悪夢のような夜が開けた。霧の晴れていくロンドンの街を、転移した現代人たちが集まって、歩いている。
「そうか―――ジャック自身の望みとは言え、『あの人』のやりそうなことだ」
　昨晩の顛末を聞き、築地哲は感想を述べる。
「築地さん。これだけは訪ねておきたいです」
　常闇月が、哲に問いかけた。
「もはや他人事では済まされない事態になってしまいました……話していただけますね？あなたが敵対している存在について」
「『あの人』のことか―――」
　哲はやや慎重になりながら答えた。
「『あの人』―――マダム・ラヴォワザンについて、君たちに有益な情報をあげられるものか、正直僕にも自信がない。彼女も僕と同様戦闘能力を持たないから、いつも他者や天候に干渉することで歴史改変の目的を遂げようとしている。……おそらく、今後も自分では手をくださず、容易には姿を見せないだろう」
　難しい顔をしている哲に向かって、クルジッカ・ヘルマゴルが声をかける。
「私たちの生活時間はクリスマス近くです。哲さんと一緒にケーキを食べたいですね。といっても、この状況じゃ難しいですね」
「……ケーキ、か」
「哲さんは、クリスマスは何をして過ごすのですか？いつも仕事ばかりでなく、少しは楽しむことも大事ですよ―――」
「うん、決めた」
　哲が不意に言ったので、クルジッカは怪訝な顔をした。
「どうしたのです？」
「保護してくれたジェニーの一家に、礼をしなければと考えていた。イギリスももうすぐ冬だ、クリスマスのお菓子を後で贈ろう。それから、君たちにもお詫びと謝礼が必要だね」
　今まで見せたことのない言動をする哲に、周囲は少々驚いていたが、彼は無表情のまま続ける。
「皆、無事で良かった。もうすぐ帰還できる―――気をつけて」
　台詞が言い終わらないうちから、転移したときの不思議な感覚が蘇ってきた。

　クリスマスにわく12月、恐怖の夜から数日経過したある日のことだ。19世紀末のロンドンに集められた面々の家に、差出人不明の荷物が届いた。中には手紙などもなく、イギリスの伝統の菓子、クリスマスプディングが入っていただけだった。

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あとがき

担当マスター：三城俊一
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皆様、今回もご参加いただきありがとうございました。

少々趣向を変えてお届けした悠久シリーズはいかがでしたか？
バトルに加え、謎解きやサスペンスの要素を加えてPCのアクションの幅を広げよう、という試みがうまくいっていれば幸いです。

ちなみに、クリスマスプディングは割と好みの分かれる味だそうで、贈答品に向いているかというと……
お礼やお詫びをすることを覚えた彼ですが、そこまでは気が利かないようです。

またいつかどこかで、お会いしましょう。

参考文献
仁賀克雄「決定版切り裂きジャック」ちくま文庫

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