「―――!」
寝子島神社の境内で、夜遅くまで鍛錬していた
御剣 刀は、いつの間にか周囲の景色が変わっていることに気がついた。
夜の闇の中から浮かび上がるのは、ヨーロッパあたりを思わせる異国の町並み。しかし、レンガ造りの建物はどれも古びてみすぼらしく、街路も薄汚くて狭苦しい。
「また異世界に飛ばされた……? しかし、ひどい臭いだな……」
彼は練習用の刃引き刀に手をかけ、警戒しながら周囲を見渡す。
不意に背後から物音がして、刀は張り詰めた面持ちで振り返った。
「すまない……また巻き込んで……」
覚束無い足取りで近づいてくる少年の顔には、見覚えがあった。
「お前―――築地じゃないか! 今度はいつの時代……」
「危険だ……逃げて……」
築地 哲の息は荒く、言葉にも力はなかった。怪訝に思って哲をよく見た刀は、彼のシャツの右肩あたりが赤く染まっているのに気づいた。
「おい、その怪我は?」
「早く……逃げるんだ……」
「出血するから動くな! まず血を止めないと」
急いで駆け寄る刀に向かって、哲は苦しい息の下から、途切れとぎれに言った―――
「……ここは19世紀末のロンドン……あれは、血に飢えた怪物だ……」
「無理にしゃべるな! 説明は落ち着いてから聞く」
心配する刀の制止も聞かず、哲は言葉を続けた。
「死にたくなければ、逃げろ……あいつは……『切り裂きジャック』……」
その言葉を述べたきり、哲は気を失った―――
皆様こんにちは、三城俊一です。
本日は、御剣 刀さんにガイドに登場いただきました。ありがとうございます。
さて、タイムスリップをテーマとした本シリーズも5作目となります。今回は、皆様をヴィクトリア朝時代のロンドンにご招待します。
〇舞台・背景
時は西暦1888年11月下旬のある夜、午前2時頃。場所はロンドンの貧民街、イーストエンド地区ホワイトチャペルです。下層階級のための集合住宅や娼家が密集した、狭く見通しの悪い裏路地が舞台です。道は迷路のようになっており、袋小路も多いです。
1888年8月31日から11月9日にかけて、このイーストエンドで5人の娼婦が鋭利な刃物で殺害され、遺体をバラバラにされる事件が発生。正体不明の犯人は『切り裂きジャック』と呼ばれ、ロンドン市民を恐怖に陥れました。
これまでのシリーズで、歴史を歪めようと暗躍していた人々がまた動き始めたようです。寝子島に住む現代人に計画を邪魔され続けたため、彼らは邪魔者を世紀末のロンドンに召喚し、『切り裂きジャック』を使って始末しようとしています。
ところが、現代人を過去に飛ばす技術は精度が悪いようで、身に覚えがないのに巻き込まれた人もいるかもしれません。
〇PL情報(召喚された時点で、PCは知りません)
この時点までに5人を殺害している『切り裂きジャック』は、獲物を求めて徘徊しています。
この日の『切り裂きジャック』は肉体を強化され、刃物や鈍器・銃器でダメージを受けづらくなっています。その上気が立っており、相手が誰であれ襲いかかってきます。
『切り裂きジャック』を倒すか捕縛する、もしくは全員が夜明けまで逃げおおせることができれば、生還となります。結界が張られてしまったのか、なぜかイーストエンド地区から脱出することはできません。
※持ち物は、たまたま身に付けていたアイテムを一つ持って行くことができます。
武器などは、持ちこむことができるものの効きづらいです。
〇NPCについて
1.築地 哲
これまでも登場した歴史シリーズの案内人。今回は他のPCと同様敵対勢力に召喚されました。召喚直後、『切り裂きジャック』に不意に襲われて右肩に重傷を負っています。致命傷ではありませんが、衰弱して思うように動けず、あまりお役に立てないと思います。背後から襲われたため、『切り裂きジャック』の風貌もわかりません。
2.ジェニー
通称『赤毛のジェニー』と呼ばれている娼婦。警察の警告にも関わらず、飢えた病身の子供の食料を調達するために外出し、ホワイトチャペルの自宅に戻っている最中です。『切り裂きジャック』の存在はロンドン中に知れ渡っており、夜中のイーストエンドを歩く人は皆無なのですが、彼女がもし『切り裂きジャック』に見つかったとしたら―――
それでは、ご参加をお待ちしております。