悠久の時の彼方へ～切り裂きジャックの嗤う夜｜リアクション

悠久の時の彼方へ～切り裂きジャックの嗤う夜

「あわわわ……」
　クルジッカ・ヘルマゴルは慌てていた。階段で滑って転げ落ちそうになった瞬間にタイムスリップし、尻餅をついた先がロンドンの路上だった。転移自体はもう慣れっこだが、今回は事情が違う。
「哲さん怪我は大丈夫ですか？治療系のろっこんを使えないのが口惜しいです……」
　負傷している築地哲に、クルジッカは応急処置を試みる。八神修も心配して聞いた。
「築地、傷を受けたのはどこだ？」
「……右肩の一箇所だ。すぐに逃げたから深くはない」
　だが、哲の息はまだ苦しそうだった。蛇那伊や刀が動いて、全員ではないものの転移した現代人たちを集めた。彼らがひとまず終結したのは、イーストエンドの入り組んだ路地の中の小さな空き地だった。そこが切り裂きジャックの第３の殺人現場だったということを、誰が知っていただろうか―――

「治療なら、私の出番ですね！」
　椿美咲紀が名乗り出た。
「椿のろっこんには、花がいるはずだが……」
「花は常に持っています。心安らぎますから」

　そう言って、美咲紀は花を持って舞いを始めた。ろっこん〈舞花の踊り〉の力で、哲の傷は塞がり、徐々に容態が回復していく。哲が上体を起こした。
「……すまない。楽になったよ」
「落ち着いたところで、事情を聞かせてくれ」
　修が哲に問うた。
「『巻き込んだ』など諸々の君の発言からして、これは敵の策なんじゃないか。先方も俺たちを敵と認識しているなら、知らなければ危険だ。教えてくれ、築地」
　少しためらいを見せたものの、哲はまもなく話し始めた。
「もう秘密主義には限界があるね……八神君の言う通り、『あの人』は君たちを直接攻撃し始めている」
　彼は、敵対者がもれいびたちを19世紀末のロンドンに召喚した目的を説明する。