悠久の時の彼方へ～切り裂きジャックの嗤う夜｜リアクション

悠久の時の彼方へ～切り裂きジャックの嗤う夜

「俺の担当は、遠距離攻撃だ」
　八神修は、路地全体を見渡せる位置に陣取ると、息を止めた。戦いの行われている裏路地の幅は、せいぜい数メートルと狭い。仲間に迷惑をかけないよう、〈分解〉の発動は慎重に行う。

　修は、通り沿いの建物の破れ窓を狙って分解した。ガラスとサッシが勢いよく落ち、真下にいたジャックの頭を直撃する。不意のことに、ジャックの動きが一瞬鈍った。
「次は、足元か」
　修は、続いてジャックの足の下にある排水路の蓋を狙った。

「アタシも、攻撃を引き受けるわよ」
　尾鎌蛇那伊が、再び切り裂きジャックの前に立ちはだかった。常人ならとっくに命がないほどの攻撃を受けているが、ジャックはまだ動けている。しかし、確実に相手の疲労は溜まってきている。
　彼は常にジャックの正面に陣取り、相手の自由な動きを封じた。ジャックの動きをよく見て、筋肉の些細な動きや僅かな体重移動、気配や視線の動きを全て察知する。得られた情報から相手の動きを素早く先読みし、蛇那伊は全身の気を集中させた。
　ジャックの動作を見切り、攻撃を受け止める動作と同時に打撃を叩き込む。
「筋肉は強化しても、内蔵はどうかしらね？」
普通に殴っても効果がないことは分かっている。『鎧通し』とか『浸透剄』と呼ばれる、衝撃を直接体内に伝える技術を駆使しての打撃だった。ジャックのえずく声が聞こえた。まだ相手は戦えるが、確かに効いている―――

「出遅れている場合ではありません！」
　クルジッカ・ヘルマゴルも負けじと戦いに参加する。轟や月たちがジャックの注意を引いている間、慎重に殺人鬼との距離を詰めた状態で、彼女はろっこんを発動させた。
「クルクルマジック！」
　切り裂きジャックの右手からナイフが離れたかと思うと、刃先を向けて一直線に持ち主に向かっていく。ナイフでジャックの体に傷をつけることはできないが、凶器を奪えたのは全体の士気の面でも大きかった。