悠久の時の彼方へ～切り裂きジャックの嗤う夜｜リアクション

悠久の時の彼方へ～切り裂きジャックの嗤う夜

「危ない！」
　寧々子の声が響いた。斗南が振り向くと同時に、細長いナイフが振り下ろされた。間一髪、ナイフは彼の頬を僅かに切っただけで済んだ。
「そう言えば……」
　斗南は反射的にナイフの届く範囲から飛び退きながら考えた。
「そう言えば、同時代の殺人事件には、ジャック・ザ・リッパーの模倣犯によるものも多数あったって言われてたっけ……」
　切り裂きジャックの跋扈するロンドンには、彼を模倣して操作を攪乱しようとする不届き者も多数いたらしいのだ。つまりさっき倒したのは、そうした『偽ジャック』の一人だったのか。
　この人間離れした動き―――こいつこそ本物の切り裂きジャックだ。斗南は本能的に確信した。斗南は、仮面をつけ直してろっこんを発動できるようにする。そして、寧々子に対して叫んだ。
「君、早く物陰に隠れて！」

「本当に、その人を目撃したのね！」
　神野美野梨は、目の前の野良猫に向かって念を押した。
「確かに、その風体の男なら二ヶ月くらい前に見たわよ。教会の裏口から入って、何か包みをこそこそ隠してたわ。見たのはそれだけだけど」
「ありがとう、これはお礼よ」
　美野梨は猫にちくわをあげると、同行していた二人に報告した。新井すばるが分析する。
「隠さないといけない物……血のついた凶器か、変装用の衣装か。いずれにせよ、重大な証拠になりうるものだろうね。ボクたちはそれらの存在を知らない、つまり当時の警察には見つからなかった」
　美野梨が続きを口にした。
「二か月前なら、犯行の初期ね。隠し通すのに成功するほど良い隠し場所なら、犯行の度にその場所を利用していた可能性も高いわ」
　ブリジット・アーチャーも続いて推理する。

「つまり、そこはジャックのよく知った場所で、今夜もまたそこに現れる可能性も高い。そして、この地区の教会といえば―――」
「そう、ここの地名の由来になった―――」
　三人が同時に結論を出した。
「ホワイトチャペル教会！」

「今すぐ皆に知らせないと！」
　美野梨の言葉に、ブリジットが大きく頷いた。
「ジャックを捕まえて、ミス研の名を知らしめるのよ。そして何より、これ以上罪のない命が失われてはいけないわ！」