悠久の時の彼方へ～切り裂きジャックの嗤う夜｜リアクション

悠久の時の彼方へ～切り裂きジャックの嗤う夜

「―――歩いても歩いてもスラム街から出られない……どうして？」
　木鈴寧々子は焦りを募らせていた。スラム街の外に向かってまっすぐ歩いているつもりなのに、同じところをぐるぐる回っている気がする。
　焦る寧々子は、つい一瞬の隙を見せてしまった。古びた教会の裏手にある、誰の目にもつかない見通しの悪い曲がり角を、不用意に通り過ぎようとしたのだ。
　その時―――寧々子は急に髪の毛を鷲掴みにされ、強い力で暗闇に引き寄せられた。
「―――！」
　声を出す暇もない。髪を捕まれ、首を後ろに反らされると咄嗟に反撃できない。人を襲うのに手馴れた感じが伝わる。
　寧々子は、煮え立つような殺意と、喉元を掻き切られる冷たいイメージを感じ取る。そして、本能的に足の力を抜いた。腕の主にしてみれば想定外の動きに違いない。果たして、殺意の込められた刃はバランスを崩し、急遽コース変更を余儀なくされた。
　鋭い切っ先が空を切ったのを見ると、寧々子は旅行カバンを振り上げ、思い切り相手の頭にぶつけた。髪を掴んでいた手が離れる。
　彼女は猫のようにその場を飛び退き、相手に向き直った。
「痛ったぁ……、髪の毛が抜けたじゃない！」
　ぼやきながらも、寧々子は考えた。こんなことにならないように、比較的見通しの良い道を選んでたのに！
　頭を押さえて呻いていた目の前の男が、ゆっくりと立ち上がる。

　あぁ、切り裂きジャックってこんな感じなんだろうな。
　朦朧としかける意識の中で、寧々子は逃げる選択肢を取ろうとした。

　その刹那、寧々子の目に強烈な光が飛び込んできた。
「ジャック・ザ・リッパー！今こそ裁かれる時だ」