アレコレひゃっはーの日｜リアクション

アレコレひゃっはーの日

聖日のシンフォニア

　唐突にチャイムが鳴った。玄関の近くにいた八神修は使用人よりも早くに動いた。
「あおい、どうしたんだ？」
「待ち合わせしてた友達が用事で来れなくなって。寄ってみたんだけど、それ、一緒に作った服だよね」
「そうだよ。市販品のような出来ではないけど、割と気に入っているんだ」
　修は少し寂しそうな目をした。眼前の七夜あおいは黒いトレーナーに赤いダウンジャケット。青いスリムパンツを穿いていた。肩口には大きなトートバッグを掛けている。
　――俺と一緒に作った服、ではないな。神様に期待し過ぎだ。
　本音を笑顔に隠して修はあおいを中に招き入れた。先頭で廊下を歩いて居間に連れていった。
「あおい、ここが居間で、え？」
「私のお気に入りだよ」
　あおいはダウンジャケットを脱いで自作のパーカーチュニックを着ていた。フードの部分が猫の耳を表現していて、それらしく尻尾まで付いていた。
「本当は友達に見せるつもりだったんだけど。これであの時と同じだね」
「あおい、よく似合っているよ。どうして、最初から着てなかったんだ？」
「この格好で外に出るのはちょっとね」
　あおいは毛先を指で弄りながら笑った。修は微笑ましい目で見て、可愛いのに、と出掛った言葉を飲み込んだ。
　居間に入るとあおいが喜びの声を上げる。猫達が放し飼いの状態になっていた。
「あの白い猫、名前はミルクだよね」
「そうだよ。ネコフェスの時にあおいの膝に乗せて貰った子だよ」
「少し遊んでもいいかな」
　うずうずした顔で頼まれて断れるはずがない。
「皆も喜ぶと思うよ」
　修の笑みにあおいは笑顔を返した。猫達が固まっているところにいそいそと向かって、その場に寝転がって見せた。等身大の猫の登場に驚きつつも次第に打ち解けていった。
　見惚れていた修は軽く頭を振った。用意していたゲームの類いを片付けてケーキと紅茶の用意を始めた。
　全てが整うと修はソファーに座って時を待った。
　ようやく満足したのか。あおいは修のところに戻ってきた。
「なんか夢中になっちゃって。ごめんね」
「そんなことはないさ。猫達の運動に付き合ってくれてありがとう」
　修はソファーの横にあおいを座らせるとアイスティーを差し出した。
「喉の渇きが癒えるよ。それと疲れた時には甘い物がいいよね」
　ケーキを切り分けてあおいの手前の皿に乗せる。
「修君、ありがとう。じゃあ、いただきます」
　あおいは両手を合わせた。濡れたグラスを持ち上げてストローで吸った。喉元を通る冷たさにうっとりとした表情になる。一口大のケーキには笑みを零して味わった。
　隣にいた修はあおいの仕草の虜となった。自分用に置いた物は手付かずの状態である。
　――このままでは駄目だ。どこかで流れを変えないと。
　修はあおいのポケットの裏側に注目した。
「あおい、そのポケットの中にあるのは何かな」
「これは寝子祭で修君がくれたバッジだよ。落としたら困るから内側に付けちゃった」
　あおいは照れたように笑って顔の横でパタパタと手を動かす。
「なんか顔が熱いね」
「俺もだよ。あおいの気持ちが嬉しくて、胸のドキドキが止まらなくて、俺はあおいのことが本当に好きなんだと思う」
　修の口から自然に言葉が流れた。心の底に押し止めていた感情が温かみのある笑みとなって溢れる。
「その、嬉しいような、困るような、ヘンな感じ」
　あおいは少し俯いて自身の左胸を手で押さえた。
　二人の時間は緩やかに過ぎていく。

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