Xmasの奇跡☆　物語の素敵な１日 in 寝子島！｜リアクション

Xmasの奇跡☆　物語の素敵な１日 in 寝子島！

●竹取物語

　薔薇園の２人は、まるでお伽噺の王女達のようだった。

「……鏡の前に立って見て」
　かぐや姫の服をコーディネートしてやり、店の鏡の前に立たせる。自分の姿を見た時の歓喜の表情。彼女にとっては私、三宅葉月は幻術使いに思えた事だろう。
　豪奢な十二単を脱ぎ、レースとフリルで繊細に飾られたクラッシックなゴシックファッションに身を包む平安時代の姫。時代も虚構も脱ぎ捨て、突然私の自室に現れた彼女は、この時代、この場所を楽しむ事を望んでいた。

　―――何をそんなに憂いているの？

　彼女の瞳の翳りにそう問いそうになるが、私は黙って彼女の望みを叶えてやる事にした。
　事情があるのは誰でも一緒。私だってそう。でもそれを詮索されるのはごめんだわ。私の胸の痛みは私の物だから。
　脱ぎ捨て、着替えられるならそうしましょう。例え、それが一時の麻薬だとしても。

　こうして、私と同じような服を着たいというかぐや姫の希望を叶え、寝子島を散策した後、私達は星ヶ丘寮の近くにある薔薇園にやってきた。これも、「この世界の花が見たい」という彼女の希望だった。

　冬の薔薇は色も濃く、春や夏とはまた違った風情がある。そして凜とした透き通る青空の下、薔薇の間を歩くかぐや姫の姿は、息を呑む美しさだった。
　他者を狂わせるからと閉じこもらなければいけないほどの凄惨な美は、彼女にとっては何か価値があるのだろうか。自分も５人の求婚者を笑えない。だって、今も彼女から目を離せないのだから。
　―――それでも彼女の望みを叶えてる分、彼らよりは１歩リードしてるのかしら？
　その考えに、私は思わずふふと笑ってしまった。
「葉月様！」
　先に歩いていたかぐや姫が私を呼ぶ。私は笑みを返すと、薔薇の間をゆっくりと歩き出す。どんな華麗な絵巻物にも負けない時間が、今流れていた。

「美しい所ですね。まるで桃源郷のような」
　そう呟くと、かぐや姫はそっと１輪の薔薇に触れた。
「……月の世界の方が綺麗でしょう？」
　思い悩む事のない美しい世界だと物語にはあったはずだ。それはまさに、桃源郷の如し。
　しかし、かぐや姫はゆっくりと首を振った。
「……葉月様は、美しさとは何だと思いますか？」
　難しい質問だった。ただ、不謹慎かもしれないが、今、憂いている彼女の表情は綺麗だと思った。
「私は、罪を犯し月から地上にやられました。覚えています。私を見つけてくれたお父様もお母様も貧乏で、家はすきま風でとても寒くて」
　思い出したのか、かぐや姫は楽しそうに笑う。その笑みに、私は彼女の胸の痛みを感じ取ってしまった。
「……でも、そこが１番美しい所なのね」
　弾かれたようにかぐや姫は私を見た。みるみるうちにその両目に涙が溜まる。
　思い悩まない世界とは、何だろうか。この世の望みが全てある世界。全てがあるという事は、何もないと同義だ。葉月は思わずぞっとした。何も望む事が、ない世界。
「両親は、何も持っていなかったけど、たくさんの事を私にくれました。私は、私の事を美しいと言ってくれる彼らの方が、よほど美しいと思う」
　ぽたり。かぐや姫から零れ出た涙が、薔薇の花に落ちる。それはまるで薔薇から生まれた甘露のようだ。かぐや姫は目尻にあるその玉のような涙を優雅に拭った。
「申し訳ありません、泣いてしまって」
　私は静かに首を振った。きっと彼女は、その思いを誰かに聞いて欲しくてこの世界に来たのだろうから。私は彼女の手を優しく取った。
「……もう少し、歩きましょうか」
　私とかぐや姫はそっと視線を絡め、また薔薇の中を歩き出した。

　大丈夫、覚えているわ。貴女が天の羽衣をまとい、全てを忘れてしまっても。
　竹取の翁と嫗の事を想い流した貴女の涙が、この世で一番美しかった事を。

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