迷子の太陽と彷徨う犬｜リアクション

迷子の太陽と彷徨う犬

「母さん！」
　先に戻っていた深倉理紗子と宮祀智瑜と一緒に七輪の火を囲んでいた店員は、志波高久に抱えられて帰ってきた犬の姿の女将を見るなり、半泣きで立ち上がった。
　そのいかつい顔と服が何故か煤けていることに首を傾げつつ、高久は駆け寄る店員から女将を庇う格好になる。
「……一先ず、お互いに謝ってみてはどうだろうか」
　女将の犬化を解く方法としては、原因から鑑みてそれが一番に考え付く。傍らで同じように腕組みをして、店員に向け難しい顔をしている毒島柘榴にろっこん無効化の力を試してもらうことも考えはしたが、帰る道々に聞いてみれば、それをしてもらうためには女将に柘榴の手刀を受けてもらわねばならない。手加減されたものとは言え、女性に打撃を敢えて受けさせることは出来れば避けたかった。
「仲直りすればきっと元に戻れますよ！　ハグですよ！」
　智瑜が仕草を交えて一生懸命に言い立て、
「女将さんの言葉を頭から信じなかったのはどうかと思うわ」
　皆の帰りを待っている間、店員から喧嘩の理由を聞いていた理紗子が冷静に店員から謝るように促す。
「二人が仲直りしてお店を開こうとしたらあっさり元に戻りそうな気がするよ」
　刀がふわりと微笑む。
「太一」
　鹿爪らしい顔を緩めもせず、柘榴が店員の背中を分厚い掌で叩く。
「花枝さんも」
　高久から犬の姿の女将を受け取り、叩かれた背に顔しかめる店員の前に立たせる。そうして、励ますように女将の背中を撫でる。　
　その場の全員の仲裁を受けて、店員が犬の前に膝をついた。犬と目を合わせ、両手を膝におく。いかつい坊主頭を下げる。
「母さん、ごめんなさい」
　店員が詫びたその瞬間、ゆらり、犬の姿が揺らいだ。
「私こそ、驚かせてごめんね」
　人のかたちした口から人の言葉が出ることに驚いて、女将は己が元の姿を取り戻せたことに気がついた。
　元に戻った己の姿を一眺めして、女将は割烹着の胸に手をやり息を吐く。親子喧嘩の仲裁に尽力してくれた人々を見回す。
「ご迷惑をお掛けしてごめんなさいね」
「お騒がせしました」
　深々と頭を下げる女将に倣い、女将の隣で店員が同じように頭を下げる。
「ううん、良かったです！」
　智瑜がつられて二人と同じように頭をぺこりと下げる。事の顛末をきちんと見届けられたことに安心して、店先に停めた自転車にひょいと跨る。そうして家に帰ろうとした途端、祖父が仕事終わりにハナに行くと言っていたことを思い出した。
　元の姿に戻るなり、今回の騒動のお詫びと称して店先に七輪を並べ集まった皆に焼き鳥と酒を振舞おうと立ち働き始める女将を捕まえ、祖父の来店予定を伝える。
「お酒はほどほどで帰してもらえると嬉しいです」
　こっそり耳打ちする孝行な孫に、女将は相好を崩して頷いた。店員が先に焼きあげていた焼き鳥を包み、帰途に着く智瑜に持たせる。
　事件解決の安堵と空腹のあまり冷め切った焼き鳥を一気に食べきり、寂しそうな顔をしていた刀にも新しい焼き鳥の皿を渡す。
「ありがとう、黒河さん」
「こちらこそ色々とありがとうね」
「美味い」
　満面の笑みで焼き鳥を頬張る食いしん坊な刀に笑いかけ、女将は店内に酒瓶とコップを取りに戻る。
（やっぱり二人がいてこの焼き鳥があってこその『やきとりハナ』だよな）
　いつもと変わらないフツウの光景を目にしながら、刀は焼き鳥で空腹を満たす。
「さあさあ、座ってください」
　店員が店の裏から長椅子をいくつも引き出し、店先に並べる。店員が理紗子と高久、柘榴を座らせれば、女将が盆に載せた一升瓶とコップを持って来る。三人にコップを持たせ、楽しげに酒を注いで回る。
　突如として始まる冬の星座を仰いでの酒宴に手を振り、自転車に乗って去る智瑜と入れ違いに、
「ぼんぼち牛串豚トロ軟骨赤モツ白モツ」
　とりあえず今のところは色々なことを振り切った後木真央が、呪文を唱えつつ八神修の手を引いて駆けて来る。
「でもやっぱりタレのレバーとモツ！　あとネギマとつくね！」
「そんなに買うのか」
「修ちゃんちにお邪魔して追試対策しつつ食べるのだ！」
「まあ、勉強くらいは教えるよ」　
「元気なのはいいことさね」
　ちょっぴり疲れた様子で少年少女の後に着いてきた宇佐見満月は、焼き鳥の大量購入に走る真央を見、その隣で少し呆れ顔ながら楽しげな眼差しの修を見る。それから店先に置いた長椅子に並んで腰掛ける高久と理紗子を見てシャッキリ背筋を伸ばす。
　色々ゴタゴタとありはしたけれど、まだちょっと気になることもありはするけれど、
「悪漢は退治出来たし、女将さんは帰って来たし！　さあ、乾杯するさね！」
　暮れきった空に宇佐見満月の屈託ない笑い声が響き渡った。

このページにイラストを設定する

あとがき

担当マスター：阿瀬春
ファンレターはマスターページから！

　お待たせいたしました。
　クリスマスに賑わう旧市街と九夜山での一幕、お届けにあがりました。
　少しでも笑っていただけましたら、お楽しみいただけましたら、幸いです。

　怒れる十二人の輝ける男のうちの本体を指定するため、サイコロアプリをスマホに入れてみました。最近はいろんなアプリがあるものですねえ。
　結果、『6』がでましたので、一番近い数字を出されておられましたお二方に最後のとどめをさして頂きました。
　みなさま、お疲れさまでした。どのアクションもとても楽しいものでした。おかげでとてもとても楽しく、リアクションを書かせていただきました。

　個別コメント、すみません、今回もお休みさせていただきます。
　楽しみにしてくださってます方がおられましたら、本当に申し訳ありません。

　ご参加くださいましたみなさま、読んでくださいましたみなさま、どうもありがとうございました。
　また次の機会にもお会いできましたら嬉しいです。
　ありがとうございました。

　……そういえばクリスマスイブに『メリークルシミマス！』の文字を連打してたなあと思いつつ。　

↑ページトップに戻る

迷子の太陽と彷徨う犬

あとがき

シナリオ

シナリオデータ

シナリオスケジュール

参加キャラクター一覧