黄昏時の茜の光を真っ向から受けて、
宇佐見 満月は溌剌とした栗色の瞳を細めた。二十代後半戦を迎えてもまだまだ健康的で元気な頬に浮くそばかすが冬の夕日に淡い金色を帯びる。
腕まくりした服の袖から覗く腕や、うなじのあたりで切った茶色の髪を初冬の夕風に撫でられても一向に構わず、大股に道を行く。
「うー、煙草……」
凍てつく風よりも口寂しさに眉を寄せて、
「……ん?」
ちらり、首を捻った。
少々入り組んだ路地の突き当たり、古い店構えも多い旧市街の商店の中でも一際古びた店の前、満月は足を止める。
炭火と脂で煤けた換気扇、ビールケースで半ば隠れた格子戸、古びた硝子ショーケースの中に飾られた、これまた古びた造花と焼き鳥と銚子の食品サンプル。店の前には黄色いパトランプを冠した電光看板。看板には『やきとり ハナ』の文字。
夕暮れ時、いつもなら看板や軒先の赤提灯に光が灯り、換気扇からは炭火焼き鳥の匂いたっぷりの煙が吐き出されている時間帯なのに、今日の店先はしんと静まり返っている。
(今日は休みだったかい?)
不思議に思っているうち、格子戸が勢いよくガラリと開いた。
「何だい、もう店仕舞いかい?」
慌しげに出て来た熊じみた容貌の男に、満月は気さくに声をかける。
「あっ、満月さん」
格子戸に『臨時休業のおしらせ』を貼り付けながら、店二階の住居に母親である女将と住まう店員はぎくり、どこか怖じた表情を見せた。
「何かあったさね?」
「え、ああ、えーっと」
「あったさね?」
「……ありました」
やんちゃだった頃の満月を知る店員はでかい身体を丸め、脊椎反射の如くその場に正座する。
「お言い」
「母が、女将がっ、……いや、どこから言えばいいいのか、そもそも信じてもらえるのか、……」
「グダグダ言ってないで要点を! 簡潔に!」
「はッ、ハイ!」
よく通る声で一喝された店員のしどろもどろな答えを要約すると、
『二時間ほど前、女将が慌てた様子で店に駆け込んできた』
『女将が言うにはトレンチコートを着た十二人の怪しい男がコートを脱いだ途端、全身が眩しく輝いた』
『リア充爆発しろ、などと叫びながら通りを走り抜ける男がカップルや夫婦や二人組(男女組み合わせ問わず)に襲いかかり、参道商店街は阿鼻叫喚状態で大変だった』
『嘘だと笑い飛ばしたら女将と喧嘩になり、その途端女将が赤茶色の犬に変身して店を飛び出して行った』
一連の話を聞き出して後、満月はあまりの訳のわからなさに力いっぱい首を捻る。とりあえず落ち着こうと煙草を取り出し、一服着ける。
「何だい何だい、何だってんだい」
「ごもっともです。でもとにかく、女将を捜しに行かないと……九夜山の方へ走って行くのは見たんです、野生化して帰って来なかったらどうしよう」
「落ち着――」
混乱気味の店員の背中をどやしつけようとした満月の顔が引き攣る。
夕暮れの道の向こう、トレンチコートを着た男が一人。
「何だってんだい」
唇から落ちかけた煙草をくわえ直す満月と、頭を抱えたままの店員を眼にするなり、妙に体格のいい男は殺気だった眼をカッと見開いた。
「クリスマスを前にしてどこもかしこもカップルカップル……ちっくしょうおおぉおおぉぉ!」
喚きたて、男はトレンチコートの前をバッと開く。そのまま足は肩幅、肘は上腕二頭筋が一番盛り上がる角度に曲げて、――要するにマッスルポージングをする。
その瞬間、ブーメランパンツ一丁な男の裸体が太陽の如く輝き始めた。
「うわわわ?!」
情けない悲鳴をあげる店員の傍ら、満月はくわえ煙草で腕を組んで仁王立つ。
「いーい度胸さね」
唇に浮かぶは不敵な笑み。
「アンタはここで女将を待ってるさね」
店員に命じる満月の脳裏を過ぎるは――
ちょっとした他愛ない過去の一場面。
「さあ、覚悟はいいかい……?」
こんにちは。阿瀬 春と申します。
今回は、寝子島の日常的(?)風景、ろっこん事件の一幕をお届けにあがりました。
事件はふたつ。もしかご縁がありましたら、解決に乗り出して頂けましたらありがたいです。
ガイドには宇佐見 満月さんにご登場いただきました。ありがとうございます!
もしもご参加頂けますときは、ガイドはサンプルのようなものですので、ご自由にアクションをお書き下さい。
舞台は旧市街と九夜山になります。
位置的に両方の事件をひとりで解決はできませんので、どちらの事件に関わるかをお選びください。
■事件<1>
参道商店街や寝子島駅周辺、旧市街のあたりに『輝ける裸身の男』が12人出没しています。場所は人通りがありそうな場所ならどこでも大丈夫です。
全員トレンチコート、姿かたちは全員同じ、結構いい体をしています。マッスルです。
そのマッスルな眩い身体を見せびらかして町行くカップル(二人組ならどんな二人組でも構わないようです)を追い掛け回してクリスマスをひとりぼっちで過ごす憂さ晴らしをしているようです。
マッスルなので力は強いです。でもとりあえず一発殴るとたった一人を残して『消えます』。
こちらの事件に関わる場合は、一度だけ、コメント欄への書き込みをお願いいたします。GAの場合は代表者さまおひとりの書き込みで大丈夫です。
(十二人のうちの『ほんもの』がどれか、コメント欄ダイスとマスター側のダイスの数が一番近いもので判定したいと思います)
■事件<2>
旧市街の参道商店街にある居酒屋、『やきとり ハナ』の女将が、息子である店員と喧嘩した挙句、赤毛の犬に変身して逃走しました。どうやら九夜山に潜んでいるようです。
見つけ出して確保、できれば家に連れ戻して、それからできれば元の姿に戻してあげてください。
『ハナ』の店先では、留守番店員がやきもきしながら手持ち無沙汰を持て余しすぎて店の外に七輪持ち出して焼き鳥を焼いています。ついでに通りがかりの人に焼き鳥を振舞ったりしています。
犬の変身理由や解除の仕方は、プレイヤさんが好きに考えてくれたら、その中でよさそうなものを採用できると思います。
犬の姿な女将は喋られませんが、意思はきちんともとのままです。話しかければ割合簡単に説得に応じます。
ちなみに事件<1>の犯人と女将の犬化との関連は一切ありません。
■その他
事件はどうでもいいから焼き鳥と酒を出せー、昔語りを聞けー、でも全然オッケーです。やや混乱気味の店員がビールジョッキ片手に頷きながら聞いてくれます。
※ご注意ください!※
他PCさんへの確定アクションはご遠慮ください。
NPCへの確定アクションも、あまりに強引なものは削らせていただくことがあります。
固有名詞のある持ち物等は、一般的にどういう名称をもつものか、どういう働きをするものか等をお書き下さい。なるべくこちらでも調べますが、調べ切れない場合も多々あります。その場合は、曖昧な表現になるか、最悪、PLさまの想像と違う描写になってしまいます。
色々書いてしまいましたが、あんまり深くはお気になさらずですー。ちょっとだけ気をつけて頂けましたら、とっても助かります。どうぞよろしくお願いいたします。
みなさまのご参加、九夜山の展望台から町を見下ろしつつ、お待ちしております。