THE　FUTON　～猫鳴館防寒大作戦、決行せよ～｜リアクション

THE　FUTON　～猫鳴館防寒大作戦、決行せよ～

　その頃、伊賀はとある部屋にノックをしていた。
　だが、反応が帰ってこない。
　失礼を承知で扉を開けると、部屋の中はもぬけの殻。
「……やっぱり今日も帰ってきてない。仕方ないなぁ……」
　伊賀は布団除去の際に報酬として拝領した布団を抱えていた。
　ここの部屋の主は伊賀の恋人――【彼】の部屋だ。
　恋人にも暖かい布団で寝てもらいたいと思い立った伊賀の行動は、結局、空振りに終わった。
「本当、高確率で留守なんだから……」
　一瞬、布団を恋人に見立ててダイブしてやろうと思った。
「……やめよう。その代わり、本人が来たら嫌がっても思い切り抱きついてやろう」
　――だって、彼ならこの世界のどんな布団よりも僕を暖かく包み込んでくれるからね。
　やむなく、布団だけ主のいない部屋に押し込むと、伊賀は鍋の準備が進む大部屋へ戻っていった。

「みんなー！　お待たせなのなの！　いよいよお鍋の時間なの！」
　自治会長の橘が拡声器で鍋会の開催を宣言した。
　寮生たちは拍手喝采！
　猫鳴館に遊びに来たゲストの面々のテンションも急上昇！
　誰もが一斉に鍋へ箸を付けようとした、その時。
「ちょっと待ってなの！！」
　突然、自治会長からストップが掛かった。
「ここで本日の“すぺしゃるげすと”なのー！」
　橘が大部屋の扉を開けた先に、ラストサムライ姿の旅鴉の姿があった。
「やぁ、諸君。私が来たからには安心したまえ」
　旅鴉の言葉に、参加者は雁首揃えて困惑してしまう。
　その反応に、旅鴉は思い切って大見得を切った。
「誰が呼んだか、あっ、鍋　奉　行　ぅ　～！！」
「「それがやりたかっただけかよ！！」」
　参加者の心が、今、１つになった瞬間である。
「確かにこのネタをやりたいがためにだいぶ前から着替えていたのだが。思いのほかツッコミが来ないのが意外だった……」
　お気付きの諸兄もいらっしゃるだろう。
　既に彼女は布団運搬の時には奉行姿になっていた事を……。
　周囲が布団や鍋へ意識が逸らされていたためか、それとも猫鳴館での奇行はスルーされてしまうのか、ともかく旅鴉のネタはこの場に“馴染みすぎて”いた。
「さて、実際に鍋の１つを取り仕切らせてもらうよ。私のところの鍋ではカオスは許さないからね？」
　ビシッと扇子で鍋を指差す旅鴉であった。
「私のは寄せ鍋にするよ。１つは鶏もも肉、もう１つにはタラや海老や鰯のつみれ等魚介鍋にしよう。やさいもたっぷりだ」
　ごくり、とつばを飲む音が響いた。
「だが奉行は私だ。具材のよしあしは私が決める。いいね？」
　旅鴉は凄んだ。背後に奇妙な人型の幻影が一瞬出たような気がするが気のせいだろう。
「〆に雑煮にするけど、みんなについであげるよーご飯重くしとくよー。ほらほらどんどん重くなるよー」
　旅鴉は裏でかまどで米を炊いているようだ。
　しかも自重する気がないらしい。
　誰か止めろ！！
　……改めて、鍋会がスタートである！