THE　FUTON　～猫鳴館防寒大作戦、決行せよ～｜リアクション

THE　FUTON　～猫鳴館防寒大作戦、決行せよ～

　猫鳴館側と来客側の懸命な作業により山も低くなり、お互いの存在が確認できるほどにまでなった。
　頑張れば人間ひとり程度は往来もできる程度まで片付いていた。
「橘、連絡くれてありがとう。布団の海に溺れかけたりもするが、俺は元気だ」
「元気が一番なのなのー！」
　にぱーっと笑顔で出迎える橘。
　どうやら目が覚めたようだ。
　しかしよほど羽毛布団が気に入ったのか、海苔巻きのようにくるまったままだ
　ここに妖怪布団すまきが誕生した。
　ヌクヌク！
「寝子祭で使った資材を持ってきた。壁を補強したり穴を塞ぐのに使ってくれ」
「ありがとうございますなのー！」
　資材は流石にまだ運搬できないため、トラックに載せたままの資材は橘から置き場所の確認だけするに留まった。
　しかし、妖怪布団すまきは器用にぴょんぴょん跳ねながら移動できるなぁ、と八神は変なところに感心していた。
「そうだ、今日は食事会を開くそうじゃないか。差し入れの菓子だ。食べてくれ」
　大量の菓子折りを手渡された橘はぽかーんと口をあんぐりさせていた。
「お鍋にお菓子を入れちゃうなの？？」
「えっ？」
　八神はここで重大な勘違いに気付いた。
「そうか、今日は鍋会だったのか……。分かった、橘。今から使用人たちに食材を買い込ませるから待っててくれ！」
　使命感に燃える八神の肩をなだめるように旅鴉が手を置いた。
「八神、私や恵御納も大量に持ってきた。そうりきみなさるな。猫鳴館側からも買出し要員がいるだろうし、私たちが過干渉になるのは野暮だろう？」
　物事に対して傍観者を決め込む旅鴉にとって、自主性を重視する猫鳴館のやり方を尊重した形になった。
　これに八神も納得の表情。
「ん、ああ、そうか。なら、俺は館内の補修の手伝いを……って旅鴉、その格好は一体？」
　いつの間にかラストサムライな紋付袴とちょんまげカツラを装着している旅鴉に、八神は思わず己のツッコミ技術を磨かざるを得なかった。
「えっと、12月だから忠臣蔵か？　いや特番的な意味合いで必殺な仕事人か？　なんにせよその格好、鍋や布団と関係ないだろう？」
「分かってないな、八神……」
　旅鴉はキメ顔（無表情）で告げた。
「今に、分かるさ」
「全然分からないぞ！？　なぜそこで溜めた！？」
　やがみんのツッコミレベルが１あがった！
「……頭の中で謎のファンファーレが鳴り響いた。とにかく、牛肉は必要だろう？　それくらいは買いに行かせるよ、俺の奢りだ」
「まぁ、八神がそれでいいというのなら私は何も言わないよ。肉は多ければ多いほどいい、特にここではね」
　私もそこは譲れない、とぼそっと旅鴉が呟いたことに、八神は何故か戦慄してしまった。
「あのぉ、みなさん？　あれ、大丈夫なのかな……？」
　と、作業に勤しんでいた羽生が館の地下から這い上がる蠢くものを指差した。
「……なんだろう、あれ？」