ラン・ラン・ラン！　｜リアクション

ラン・ラン・ラン！　

　あちこちでささやかれる、妙な噂。
　怪しい警察の動向。
　流言飛語は混じりつつ、それらの噂はねこったーなどで共有され始めていた。

　普段から異変に敏感な人間は、アンテナを反応させる。

「下手にやり返して、後で本当に逮捕されたらまずいしね……」
　携帯の画面をブラウズしながら、日暮ねむるは笑う。
　タイムライン上に映るのは、警察に追いかけられる知人たち。
　どうやら殺人者の濡れ衣を着せられ、逃げているらしい。

　旧市街の寝具屋、二階で彼はごろごろしていた。
　肉体は疲労するのに、精神は妙に昂ることの多い最近。
　ねこったーを眺めつつ、漸く眠気の兆してきたところで、このニュースだ。

　本能が、火薬の臭いを嗅ぎつける。

　おおらかでお人よし、マイペースの彼だが、強敵とあいまみえるときには昂る。
　敵。それも、かなりの大物。
　彼の怪人でなければ……警察を戯れに扱うことのできる敵、数は限られてくる。

　表示される謎めいたキイワードが、その直感を確信へと変える。

「『闇鴉会』に『黒根』か……」

　かりに『あいつ』の仕業ならば、ただごとではすまない。
　一応、用心はしておこう。
　ベットから起き上がり、リュックにインラインシューズを詰める。
「ようやくうとうとしはじめたのにな」
　ぼやきつつ、他の道具を思い浮かべる。
「全く、よくやってくれるよ……クローネさん、ってば」

　ドンドンドン！

　その時、だしぬけに階下から玄関をノックする音が響く！

「って、いくらなんでも来るのが早すぎるでしょ！」
　言って、荷物を背負い、窓からベランダに飛び移り、そのまま屋根に上がる。
　足元で怒号が響いた。
　構っていられない。
　あちこちの屋根を飛び移り、逃走を始める。
　既に月は高く上がり、甍やトタンの屋根を煌めかせる。

「確かここら辺に……あった」
　ゴミ捨て場には、深夜にも関わらず投棄されたごみ袋がちらほら。
　ねむるは跳躍。アクションスターのようにダイビングし、そのままゴミ袋をクッション替わりに着地。
　
「いたた……」
　夜目で目算を誤った。頭をさすって立ち上がる。
「本当はこの時間のゴミ捨てはマナー違反なんだけどさ、今回ばっかりは感謝しなきゃね」
　
　さてと……。

　シューズを履き替え、ねむるは顔を上げる。
　困難な状況となれば、自然に気持ちが昂る。
　恐怖もあるし、衝動が抑えられないのも怖い。
　しかし、そんなものに負けてはいられない。

　兎に角、状況を把握しないと……。
　油断なくねむるは、旧市街の闇へと消えていった。