ラン・ラン・ラン！　｜リアクション

ラン・ラン・ラン！　

「真央ちゃんは悪くないのだ～！」
　弾丸のように走り出し、後木真央は叫ぶ。
「自由への逃走、フライアウェイなのだ～！」

　※

　その少し前、真央は家路を急いでいた。
　
『ねこのて』のバイトが長引いた。
　このところ、客が途切れない。
　延長して一生懸命働き、まかないを美味しくいただいて、帰りが遅れてしまった。

　それでも、ネコ集会には顔を出さなくてはならない。
『真央待ち』の猫たちに、詫びの鰹節とマタタビを振舞った。
　
　すっかり遅くなってしまった。

　警戒しつつ、明るい道を選んで帰る。

　呼び止められた。
　警戒しつつ振り返り、警官であることを確かめ、安堵する。
　だがその安堵は、すぐに懐疑へと変わる。

　おかしい。
　単なる注意にしては、妙に言葉がきつい。
　まるでこちらを、悪人と決めてかかっているようだ。
　ポケットのものを出せと言われ、不承不承、真央は鰹節とまたたびを見せる。
　文句を言われる筋合いはない。
　だが、小袋に分けられた鰹節をみて、警官がニヤリと下卑た笑いを漏らした。　

「覚せい剤なのだ～？！」

　鰹節に見せかけた違法ドラッグを売りさばいている。
　脱法ハーブなどとは聞いたことがあるが、脱法鰹節などは知らない。
　
　気分が悪くなってきた。

（もしかしたらただの口実で、深夜徘徊の補導？）
　疑いが沸き起こる。
　鋭敏な真央、警察の様子がおかしいのは先刻承知だが、此方もちょっと遅くなってしまったという後ろ暗いところがある。

（逮捕歴ついて、たまるかなのだ～！）

　真央は将来に夢もある。
　点数稼ぎだかなんだかわからないが、こんなところで捕まっているわけにはいかない。
　後木真央、清廉潔白……とは言わないまでも、お天道様に顔向けできないようなことをした覚えはない。

「いくら猫鳴館が門限なしとはいえ、捕まるのは勘弁なのだ！」

　とりあえず、この場は逃げる。
　状況がよくなることもあるだろう。
　あと、このおかしな警察に、一発お見舞いしてやりたい。

　真央、怒りのメガトンキック！　

　身長のある男性に、小柄な彼女が相対するには、この場所を狙うしかないのだ。

　ともあれ、真央が咄嗟に蹴りぬいたつま先が、警官の金的を直撃すると、彼は電撃を受けたように痙攣し、白濁した目をむいた。
　
　公務執行妨害。
　ならびに、多分ＰＴＳＤを伴うセクハラ。

　全身をひくつかせる警官を後に、真央は逃走を開始する。
　