ラン・ラン・ラン！　｜リアクション

ラン・ラン・ラン！　

　空の彼方が、ようやく淡い青に染まり始める。
　安堵の溜息をつき、修は水上スクーターを繰っていた。

　ボートで逃れた彼は、鈴島にいた。
　そこでも追撃はあったが、修は岸壁や岩にひそみ、これをやり過ごした。
　相手の動きを見切って、誘導を仕掛ける戦略が功を奏し、最小限の体力を使用するにとどまった。
　
　タイミングを見計らい、修は水上スクーターへ。
　背後から、追っ手がモーターボートで追撃してくるのを感じる。
　そのモーター音は、微妙に自分のものとずれている。
　うまい具合に、偽装ボートに引っかかってくれたようだ。
　
　修は、相手の舟にそっと忍び寄り、手荒く船尾に『分解』を仕掛ける。
　ろっこんの効き目はさほどではなかったが、それも予期していたことだ。
　徐々に船は動きを緩め、停止する。
　さっさと船を捨てて泳ぐという選択肢を、彼らは看過することになる。

　水平線に、寝子島の姿が映じる。
　修は舌打ちをする。
　随分流されてしまったようだ。
　沿岸の倉庫置き場。
　人がいるということは、当然、追っ手も予想される。
　ちらちらと、人影が見える。追撃が繰り広げられているのか。

　物陰に身をひそめ、追っ手をやり過ごそうとするのは、刻人。
　たまたま何度も訪れたことがあり、なんとなく状況を把握しているので、逃げられているものの、いかんせん体力のない身。
　サーチライトが行きかい、ガントリークレーンが威容を見せつける。
　その彼方に、刻人はうすぼんやりとしたサーチライトを認める。
　
　彼がこのまま、岸に直行すれば、袋の鼠だ。
　月の光が、警官がずらりと待ち受けるコンクリートの突端部をてらす。
　以前にも確認したが、やはり相当足場は傷んでいる。

　修は焦る。
　岸では、自分の存在に気付いた警官が、こちらを待ち構えている。いまから舵を切っても、手遅れだろう。ガソリンが持たない。
　ここまできて、むざむざとらわれてしまうのか。

　そのとき、警官ののった足場が、急に崩れた！
　雪崩を打って、海中に放りだされる警官。
　修はその隙を逃さず、岸へ突撃。間一髪、倉庫街に身を隠す。

　その様子を、刻人は傍らで見遣る。
　刻人のろっこん『有益なるクロノメーター』。
　触れた対象の物を、急速に経年劣化させる。
　元からの腐食に加え、ろっこんが足場の止めを刺した形だ。
　
　彼は何とか逃げるだろう。
　あとは、自分も逃げるだけ。
　その前に、是非一言いってやらねば気が済まない。