ラン・ラン・ラン！　｜リアクション

ラン・ラン・ラン！　

　蹴撃で警察の股間を直撃して、桜庭円は全力疾走する。
　旧市街は、追われている人間も多い。
　その分だけ、連戦を強いられる。

　円が逃亡先として見出したのは――銭湯。
（女湯へ！）
　土地勘と小柄な体躯を生かし、路地を抜けて社の湯へ。

「おばちゃん！　高校生一人！」
　番台にお金を叩きつけ、女湯へ。
　そのまま、桶に水を張って、待機。

　まさに『水際立った戦略』と言える。
　ありふれた施設を、見事に生かしていた。

　思った通り、警官が入り口でもめ始める。
　力づくで押し入られようとした瞬間、円が桶を投げつける。
「キャーッ！！」
　他の女性客も、一斉に手持ちの道具を抛る。

　そのまま円はダッシュ、銭湯を抜け、再び路地へ。
　番台で買ったのが、コーヒー牛乳か、フルーツ牛乳かは、彼女のみ知るところだ。

　この『背水の陣』により、旧市街の警官隊は機動を大まかに失われる。
　路地を抜け、狭い道をくぐる円を、容易にとらえることができない。
　縦横無尽に走り抜け、不意を突かれて、奇襲される。

　さらには彼女には、強力な援軍があった。

「あれはもしや……円ちゃんなのだ？」
　
　漲るパワーに任せて、旧市街から爆走してきた後木真央。
　体力の消耗の著しい彼女をフォローしつつ、共闘体制を組んだ。
　奇襲、ゲリラアタックを繰り返し、彼女たちは逃げ続けていた。

「あれは刀ちゃん……」
　その時、真央が人影を認める。
　特に疲れた様子もなく、物陰から刀が姿を見せる。

　ろっこん『加速』を駆使する彼にとって、警察の追撃をかわすだけなら、造作もない。
　彼は警官の鼻先で翻弄させつつ、周囲の様子をうかがっていた。
　真央と円に、目線で挨拶を送る。
「刀ちゃんも警官に……」
　真央が何かに気づき、青ざめる。
「もしや、警官相手にらきすけを発動しちゃったのだ・・・・？」
　かくんと首を垂れる刀。
　最近では異性だけではなく、同性にもラッキースケベを発動するという噂の刀。
　武装した警官隊に追われるラッキースケベというのは、どういう需要があるのだろう。
「桜庭……お前もか？　どうせ、股間攻撃をしまくって、傷害罪かなんかで追われてるんだろう」
　ある意味殺し屋だな、と笑う刀は、円の剣呑な空気を感じ、即座に謝る。

　確かに、今日、円は真央と一緒に、それなりの数の股間を蹴った。

　今晩、彼女たちは一撃で相手を倒す、恐怖の撃墜女王として名を馳せていた。