ラン・ラン・ラン！　｜リアクション

ラン・ラン・ラン！　

　目深に被ったキャスケットの下から、屋敷野梢は視線を走らせる。
　完璧な変装だ。
　三つ編みを解いて、マスクをする。
　さらにダメ押し、風船を胸に仕込み、不敵に笑う。
　なんとか三世を気取るなら、魔性の美女が必要だろう。

　――これでまたまた、私もボインです。

　完璧だ。自分の特徴を余すところなく隠し、さらに魔性感もプラスしている。
　このふらちな夜に、ふさわしい装束だ。

　とりあえず、あらゆる手段を使って逃げ回る。
　夜の闇に紛れるように、そっと身をひそめ、街区に……。

　――止まりなさい。
　梢は黙って振り向く。大丈夫。変装は完璧のはず。
　むしろ、なんとか三世ならば、警察を篭絡することもできる。
　ボインを生かすのだ。

「御用かしら？」
「身なりを改めさせなさい」
「つれないのね」

　ボインを縦横無尽に生かした作戦のはずなのに、おかしい。
　不審の目で見られている気もする。
　昂然と胸を反らし、さらにセックスアピール。

　ぽた。
　風船が落ちた。

「うわああああ！！！」
「待て！　殺人犯！」

　大通りを抜け、交差点に出た瞬間、盛大なクラクションの音。
　ヘッドライトが、梢を照らし出す。
　
　瞬時に梢はろっこんを発現。蝶になって、トラックに飛び乗る。
　このタイミングを狙っていた。
（飛び乗る瞬間だけ蝶になって、運転手にばれないよーに！）
　キャスケットを再び目深に被り、梢はコートに頸をうずめる。
　おそらく進行方向は、旧市街。
　
　夜が明けるまで、攪乱させ、逃げ切る。