ラン・ラン・ラン！　｜リアクション

ラン・ラン・ラン！　

　八神修は、ヘルメットを上げて、一息ついた。
　移動手段を変えて、とにかく時間を稼がなければならない。
　
　ドラッグストアを出た修が向かったのは、中古のモトクロスショップ。
　一刻も早く、街から離れた方がいい。

「これを売ってくれ」
　レンタサイクルという手段も考えたが、いずれ乗り捨てをしなければならない。
　本当はバイクがいいのだが、生憎ちょうど良いものがない。
　金を惜しむつもりはない。
　
　錆の浮いたシャーシを確認し、修は手袋を装着する。
　メカニックには問題はない。
　不安条件があるとすれば、自分の体力くらいのもの。
　鍛錬は怠っていない。だが、過信は禁物である。

　星ヶ丘寮に向けて、矢のように走る。

　……思ったより、ずっとはやくたどり着いた。
　モトクロスを降り、修は息を吐いた。
　全身が溶鉱炉のようだ。熱を吹き出し、カッと燃えている。
　蒸気が揺らめいて、汗が滴り落ちる。
　それでも、心身に疲労は溜まっていない。
　自分の体力の付き方に、修自身が驚いていた。

　夜のマリーナには、季節外れのボートがもやってあった。
　かろうじて動くかどうかという程度。
　さすがにこれは、買うことができない。
　
　一瞬の躊躇があったが、そんな修をサーチライトが照らし出す！
　追っ手の動きは迅速だ。
　すぐさま走りこんでくる、黒服の男たち。
　手近なモーターボートに乗り込む。
　カヴァーを『分解』。剥き出しになった配線を見つめる。
　汗が伝う。
　鼓動がうるさい。
　
　男たちが向かってくる。
　喊声。
　
　焦るな。
　コードを手繰り、擦り合わせ、火花を散らす。

　足音。
　揺れる桟橋。
　数度目かの着火で、ぶるんと船体が震え、エンジンが熱い呼気を吐いた。
　
　修はハンドルを握り、夜の海へと突っ走る。
　桟橋の一部が砕けてしまった。
　
　夜に白い波頭が立つ。
　星座と、暗い島影だけが頼り。
　――鈴島に向かう。
　燃料は、ぎりぎり。

　風に髪を靡かせ、修は気づく。
　完全に、違法だ。