ラン・ラン・ラン！　｜リアクション

ラン・ラン・ラン！　

　神野美野梨は、不意に目を覚ました。
　ひどく静かだ。猫鳴館がこんな静かだったことって、あっただろうか。
　真夜中近く。それでも、不気味なくらい静まり返っている。

　そもそも、何で自分が真夜中近くに起きたりするのだろうか。
　いつ自分が寝たのか、寝る直前の行動が、全く思い出せない。
　
（……夢）

　そうだ。
　自分は、夢を見ていた。

（夢の中で、自分はマッドサイエンティストで）

　どんなふうにマッドサイエンティストなのかはわからないが。

（それで、自分は人体実験の罪で、警察に追われていた）

　ひどく胸苦しい。
　説得力などないはずなのに、なぜか妙に説得力があった。
　追われる恐怖と、罪責の感情だけが生々しかった。

（まあ、ちょっと面白かったけど）

　頭の奥が、まだぼーっとしている。ほのかに熱のぬくもりを持っているような気がする。
　静かで、耳が痛くなるくらいの無音が、鼓膜の奥にノイズのように溜まっていく。
　神経の末梢が熱い。

　ゆっくりと立ち上がり、表情もないまま、服を脱ごうとし……。

　ドンドンドン！
　激しいノックの音が響いた！

（警察！？）
　美野梨は、さっと顔を上げる。
　まるで無数の鴉が泣きわめくように、壁が軋む。窓ガラスが震える。
（夢だったはずなのに）

　もしや、自分はまだ、夢の中にいるのだろうか。
　ひどく神経症じみた恐怖が湧き上がって来る。

（逃げなきゃ）

（逃げなきゃ）

　混乱しつつ、恐ろしく速やかに靴を抱えて、ドアの乱打を無視して窓から走り出る。

（逃げなきゃ）

（逃げるとしたら、九夜山しかないわね）

　深い夜の底を、ふらふらと病人のように、美野梨は惑い行く。