ラン・ラン・ラン！　｜リアクション

ラン・ラン・ラン！　

「えー、ちょっとここで捕まるのは勘弁して欲しいんだけど」
　刻人・F・ミセリアは困ったように笑う。
　木天蓼大学の留学生として、日々の生活を送る彼。
　日々は充実している。
　あまり無駄なもめごとに巻き込まれ、ペースを乱されるのは嬉しくない。

　大学の授業が早めに終わり、彼はなんとなく散歩をしていた。
　本国の方もいろいろあり、刻人も気の休まることがなかった。
　だが、なんだか様子が妙だ。

（なんとなく変な視線を感じるんだよねー）

　異邦人としての暮らしが長いせいだろうか。
　他人の視線に、とても敏感な彼。
（こういう気配は、察知しやすいっていうか、なんつーか……）

　荒っぽいことに巻き込まれるのは、困る。
　足を速める刻人。
　背後から近づいてくる足音。やはり、自分を追っていた。

　雑踏に身を隠す。

　まるで気配が消失したように、あっさり刻人を見失う警察。

　優秀で仕事熱心な警察。
　慌てず、綿密に刻人を追うが、どうしても見つからない。

　焦りといら立ちが募るが、さすがに留学生一人に、包囲網を敷くなどは思いもよらない。
　仮に彼が、そうするに値する人物だったとしても。警察のプライドが許さないのだ。
　慌てふためき、それでも大学近辺から離れない警察をしり目に、刻人はずんずん進む。
　その顔には、ちょっと困りごとがあるくらいの気弱な「まいりましたね」という笑顔が浮かんでいる。
　そのくせ、足取りは少しも迷わないのだ。