お見合い狂想曲っ！｜リアクション

お見合い狂想曲っ！

　善は急げだ。舞衣は信彦に大橋先生の住所を確認し、カーナビに入力する。『spraoi』から星ヶ丘の大橋宅までの最短経路が表示された。助っ人の豪と刀を後部座席に乗せて、車は急発進した。最短の経路を、最速で効率よく通るのが目標だ。
「……。これ、法定速度は守ってる？」
「たぶん！」
「いや、たぶんじゃなく確実に守って！」
　車内でやり取りしているうちに、幸い渋滞などに捕まることなく目的地まで到着。舞衣は車の窓を開け、屋敷の前にいる大橋先生らしい人影に声をかけた。
「迎えに来たっス、乗ってください！」
　大橋先生はすでに涙声になっていた。
「もう30分遅刻……きっと嫌われてますよね……」
　一緒にいたニコ・ライニオが先生を励ました。
「いや、めげちゃだめだよ。なにか事情があるようだけど、僕にできることがあったら……」
　舞衣も先生を叱咤する。
「早く乗りましょう、皆応援してるっスよ！なんだか大変みたいだけど、安心して欲しいっス！私が迅速かつ安全に送迎するっスよ！なんならそこのお兄さんも一緒に……もう一人なら乗れるから！」
「そうね、諦めちゃダメね……」
　大橋先生はそう言ってポケットの写真を見ると、車に乗り込んだ―――が。
「ごめんなさい、服の裾ドアに挟んじゃった！」
「先生、落ち着くんだ！急ぐ時ほど冷静に行動だぜ」
　豪が先生をなだめる。
「忘れ物があるかも……」
「大丈夫、出発しよう！」
　豪は構わず発車の合図を出した。この際、財布を忘れていたとしても、理事長がいるからなんとかなるだろう。
　先生の緊張を和らげてあげよう、と思った舞衣は、なにか話題を振ろうと考えた。
「大橋先生は歴史が好きなんスよね？好きな人物は誰なんスか？」
「う～ん、たくさんいるけど、三国志の趙雲とか……」
　先生を励ますように、豪が口を挟んだ。
「こういう歴史だって、一人一人の人間が作ってるんだろ。歴史上の英雄も、うっかりミスして焦ったり途方にくれたりしたことがあるはずだ。先生の好きな三国志の人物なら、こんなときどうする？」
「そういえば……劉備だって、芽が出ずに失意の日々を過ごしていた時期が長かったわね。馬に乗らず贅肉がついたことを嘆いて……。それから、曹操だって女色に溺れて油断しているところを奇襲されて負け戦を……」
　大橋先生は、目を輝かせて三国志語りを始めた。お見合いには逆効果かもしれないが、不安な顔をしてるよりはいいはずだ。
「大丈夫だ、先生の魅力は俺が保証する」
　傍で聞いていたニコは、先生を微笑ましく見守っている。今回のお見合いにかけていることがまるわかりなので、可愛い人だな、とも思った。女性の力になるのは当然のことなので、お見合いのことも応援することにした。
「あっ、いけない……私ったらまた夢中で三国志の話を」
「一緒にいたいと感じるような相手なら、これからも長い時間を過ごすだろうし、そのままの自分を知ってもらうのも手だと思うけどな……うっかりなところも含めて、ね」
　刀は、話には加わらずにじっと先生を観察していた。先生が急にドジを連発するようになったのには、なにか原因があるはず……
　五人を乗せた自動車は、一直線に『spraoi』に向かっている。