メリークリスマス｜リアクション

メリークリスマス

　アパートの一室。真境名アリサは横向きで眠っている。静かな寝息が途切れて薄っすらと瞼を開けた。枕元のスマートフォンを握ると薄目で時間を確かめた。
「休みなのに……」
　手が力尽きたようにぱたりと落ちる。瞼を閉じて、間もなく開けた。起き上がると明るい窓辺に向かう。陽の光を全身に浴びたものの、目は眠そうにしていた。それでいて今日の予定を考えるかのように小難しい顔になる。
　その時、持っていたスマートフォンが鳴った。電話に出ると女の子の声が聞こえてきた。
『あたしはメリーさん。あたしのクリスマスを祝って欲しいの』
「あー、はいはい。どこかのメリーさんね」
　アリサは軽くあしらって電話を切った。イタズラ電話の類いと即断した。
　数分後、同じ声の女の子から電話が掛かってきた。自分の居場所を伝えるとアリサの言葉を待たずに切った。同じ行為が何度か続く。
　ふとアリサは気が付いた。
「こっちに来てる？」
　呼び出し音が鳴った瞬間、アリサはスマートフォンを耳に当てた。
『あたしはメリーさん。今、あなたの家の玄関にいるの』
「冗談にしては笑えな……本当にいるわね」
　向かった玄関に赤いコートを着た女の子が立っていた。アリサはドアノブを掴んだ。試すと施錠された状態であった。
　アリサは女の子に目をやる。徐に頭を撫でた。確かめるような手付きで肩や背中に触れる。
「あたしはメリーさん。そっち系の趣味は持ち合わせていないの」
「な、あたしだってノーマルよ。あんたがヘンな現れ方をしたから確かめただけで。誤解しないでよね」
　激しい身振りで少し息が上がる。女の子は不思議そうに見上げていた。
　アリサは根負けした様子でしゃがんだ。女の子と同じ目の高さで聞いた。
「それで何をして欲しいのよ」
「あなたが祝ってくれることでいいの」
「見事な丸投げね。まあ、いいわ。ちょうど時間もあることだし」
　アリサは立ち上がると奥で着替えを始めた。白いニットセーターに青いデニムパンツを合わせる。グレーのチェスターコートを羽織ると女の子のところに戻ってきた。
「寝子島駅で電車に乗ってシーサイドタウンを適当に流すわよ」
　地名に疎いのか。女の子は首を傾げた状態でこくりと頷いた。
「ちゃんとあたしが案内するから心配ないわ」
　アリサは笑ってドアを開けた。女の子の背中に優しく手を当てて出掛けていった。

　二人は最寄りの寝子島駅に向かった。切符を買う時にアリサは少し悩んだ。後ろにいた女の子の姿をじっと見る。
「子供料金でいけるよね」
　アリサは二枚の切符を買った。二人で難なく改札を抜けて訪れた電車に乗り込んだ。
　女の子は正面のドアの窓に張り付いた。ガラスに額を引っ付けて青い海を眺める。アリサは傍らで微笑んで言った。
「海が珍しいのね」
「あたしはメリーさん。小旅行の気分を楽しんでいるの」
「数分の旅になるわよ」
　寝子島シーサイドタウン駅に到着した。アリサは女の子の手を引っ張ってホームに降りた。
「海もいいけど、今はクリスマスを楽しまないとね」
　アリサの言葉に遅れがちな女の子の足が速くなる。横に並んでそれとなく笑みを浮かべた。
　駅前の噴水の近くでアリサは立ち止まった。女の子は繋いでいた手を急かすように振る。
「人の多いところが狙い目なのよ」
　見つけた一本の流れにアリサは向かった。その通りはクリスマス一色に染められていた。関連した音楽が気分を盛り上げる。ショーウインドウには華やかなツリーが飾られ、大きなトナカイの縫い包みが円らな瞳を向けてきた。店を巡る女の子の足取りは軽い。
「可愛いお嬢ちゃんにはサンタのバッジをあげよう」
　サンタクロースに扮した恰幅の良い人物が女の子に丸いバッジを渡した。赤い色に白抜きのトナカイとサンタクロースが描かれていた。
　その後、二人は目にしたロッジ風の店で一時の食事を楽しんだ。

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