メリークリスマス｜リアクション

メリークリスマス

　金色の髪を弾ませてトワ・E・ライトフェロゥがシーサイドタウンを元気に歩く。ピンクの品の良いドレスに同色の大きなショールで身を包んでいた。ポニーテールの根本を彩る赤いリボンと相俟ってトワ自身がクリスマスプレゼントのようであった。
　陽気に一人の行進を続けた。
「jingle bell～　jingle bell～　ジンギ～スカーン　ネコ電ーゴトゴト　あおもりへー　Go！」
　定番の曲に怪しい歌詞を付けて高らかに歌う。あまりに楽しそうな様子に周囲の人々の目が優しくなる。
　合いの手を入れるように電話が鳴った。足を止めて耳に携帯電話を当てる。
『あたしはメリーさん。あたしのクリスマスを祝って欲しいの』
「call　メリー　クリスマス　いわてしの……Merry Christmas？」
　トワの質問に相手は押し黙り、その状態で電話を切った。
「デンチ　切れたデスね」
　何事もなかったかのように歩き出す。その足を引き留めるかのように電話が鳴った。同じ人物の声で、あなたの正面にいるの、と少し怒ったような口調で言った。
　トワは前を見た。赤いコートを着た女の子がむくれた顔で立っていた。
「あたしはメリーさん。あたしのクリスマスを祝って欲しいから出向いてきたの」
「Merry？」
　トワの疑問に女の子は、うん、と頷く。
「Christmas？」
「そうなの」
　女の子は力強く頷いた。トワは笑顔となる。
「Merry！」
「そうなの」
「Christmas！」
「そうなの？」
　同じ言葉を繰り返すトワに女の子は不信感を露わにした。
「Merry　Christmas！」
　両手を突き上げたトワに女の子は猛烈な勢いで頭を振った。断固たる否定であった。
　トワは青い目をぱちくりさせる。女の子は相手の容姿を注視して軽く息を吐いた。
「……What's wrong with you？（意訳：どういうことなの？）」
「Ah　トワ　にっぽんご　しゃべれる　少しデス」
「……あたしはメリーさん」
「Merry？」
　聞かれた女の子は自身を指差した。目にしたトワは笑顔を爆発させた。
「メリー！　Nameデシタカ　Maryデスネ！」
「あたしのクリスマスを祝って欲しいの」
「Christmas　イワウ？　カワウ　Friends？」
　トワの言動に女の子は片方の胸を突き出した。そこには赤くて丸いバッジが付けてあった。トナカイとサンタクロースの白抜きを強調する。
「クリスマス　楽しむ　ＯＫ？」
「そう、かもしれないの」
　女の子はトワの顔を見ながら歯切れの悪い言葉を返す。相手の生気を吸い取ったかのようにトワは気力を漲らせた。
「メリー　楽しむデス！」
　トワは元気に歩き出した。女の子は黙って後ろを付いていく。
「jingle bell～　jingle bell～　ジンギ～スカーン♪」
　トワの歌声が響き渡る。女の子は湿っぽい瞳で背中を見ていた。
　突然、先頭のトワが後ろを振り返る。
「クリスマス　さんたくろーす　presentくれる、デス」
「メリーさんはバッジを貰ったの」
「Oh　とーもーだーち、とも　Exchange　こーかん、するデス！」
　そこでトワの勢いが失速した。不安そうな顔で女の子に聞く。
「トワとメリー　ともだち、デス？」
「交換するの」
　女の子は胸のバッジを外した。トワのショールにそっと付ける。
「こーかん、するは　ともだちデス！　トワもあげるマス！」
　予備の赤いリボンを取り出し、急いで女の子の背後に回る。一部の髪を束ねてリボンで留めた。
　二人は近くのショーウインドウに並んで立った。
「トワとメリー　おそろってるデス」
「可愛いかもしれないの」
　女の子は顔を左右に動かす。リボンの位置を指で少し弄ってはにかんだ。隣のトワは嬉しそうにしながらも目を閉じた。渋い表情で腕を組む。
「Ribbonだけ　サビシイデスネ　So……cake　行くデス　cake！」
　トワが隣に顔を向けると、そこに女の子の姿はなかった。
「……Mary？」
　呼び掛けても返事はない。トワはショールのバッジに目をやる。僅かに沈んだ表情が明るくなった。
「メリー　Ribbon　うれしそうデシタ！」
　腕を大きく振ってトワは散歩を再開した。

このページにイラストを設定する