あつまれ☆サンマ幼稚園｜リアクション

あつまれ☆サンマ幼稚園

　ぱたぱたと、安田恵はこねこ組の教室へととび込んだ。
　リボンとうさぎの髪飾りで留めた愛らしいピッグテールがぴょこんと揺れる。
　キュートなピンクのスモックとキュロットスカートも、あつらえたようによく似合っている恵である。
「ふあー、まにあってよかったぁ」
　そしてそんな恵が何に『間に合った』のかというと、それはお手洗いなのであった。
　ちなみに、今さっきまで恵がいたのは男の子用のトイレ。
　恵、見た目は完全に女の子だが、性別は男の子なのである。
　スモックがピンクなのはおさがりだからだし、キュロットスカートも男の子にも使いやすいよう改造されていたりする。
「おかたづけのとちゅうだったのに、すぐにおべんじょいきたくなっちゃうからこまっちゃう！」
　さっきだって、教室に出しっぱなしにされていた絵本やおもちゃを夢中になってせっせと片付けていたのに、その最中にトイレに行きたくなってしまったのだ。
　そういう次第で、恵は教室に戻るとすぐ、また懸命にお片付けを再開した。
「おへやがちらかっていたりするといやだよね？　だしっぱなしはだめだよー」
　本も、おもちゃも、クレヨンも。
　散らかっている物は、きちんと元の場所に戻したい綺麗好きな性分なのである。
「うーん、でも、こんなにたくさんはもてないなぁ。じゅんばんにはこばなくっちゃだね」
　言いながら、山積みになった鳥の絵本を持てるだけ小さな手に抱える恵。
　そんな恵に、横からそっと手が差し伸べられた。
　驚いて目をぱちぱちとする恵に、にっこりと露草は笑みかける。
「わたしも、お片付け手伝うね。だから、綺麗になったら一緒におままごとで遊ぼ？」
　そう声をかけられて、恵はちょっと困ったように視線を泳がせた。
　遊びに誘ってくれるのは嬉しいのだ。だけど。
「……ボク、ちょっとしかあそべないの。だって、すぐにおべんじょいきたくなっちゃうし」
　そう言って、恵は絵本を両手に抱えたままもじもじとする。
　自分も持てるだけの絵本を手に取りながら、露草も少し眉を下げた。
「そっか……でも、せっかくだから一緒に遊びたいね」
　何かいい方法はないかなぁと露草が零せば、残りの絵本を片付けにかかりながら、
「おままごとなら、我慢できなくなった時はお出掛け中ってことにすればいいんじゃない？」
　と、夏夜が落ち着いた声で助け船を出す。
　その言葉に、露草と恵の表情がぱあと明るくなった。
「夏夜ちゃん、すごい！　そしたら、皆で一緒に遊べるね」
「ボクもいっしょにあそべるの、うれしいなぁ」
「それじゃあ、先にお片付けを終わらせようか」
　そうして、３人は教室を完璧にお片付け。
　すっかり片付いた部屋の中で、露草が嬉しそうに言葉を零す。
「綺麗になったね。大きなビニールシート、借りてこないと」
「ビニールシート？　何に使うの？」
　夏夜の問いに、露草はどこか誇らしげに笑った。
「ビニールシートを敷いてね、その中を『おうち』にするの」
　なるほど、と頷く夏夜の隣で、恵がおずおずと小さく手を上げる。
「あの、そしたらボク、そのあいだにおべんじょにいってくる、ねっ」
　告げるや否や、恵はぱたぱたと教室からとび出していった。