あつまれ☆サンマ幼稚園｜リアクション

あつまれ☆サンマ幼稚園

「ふえええええん！」
　園庭の方から聞こえてきた泣き声に、島岡先生を手伝って外廊下をてくてくと歩いていた寧々子と修は、同時に声のした方へと顔を向けた。
「雪乃先生、お庭で誰か泣いてるよ」
「ええ、心配ですねぇ。他の先生もいらっしゃるので大丈夫だとは思いますが～……」
　懸命に島岡先生の顔を見上げて修が訴えれば、先生も言葉通りの心配顔で園庭の方向へと視線を遣る。
　きゅっと表情を引き締めて、修は島岡先生にもう一度声をかけようとした。
　プリントを先生に預けて、園庭まで走っていこうと思ったのだ。けれど。
「ねぇ、これ、ちょっと持ってて！」
　修が声を上げるよりも早く、寧々子の持っていたプリントが、彼の手へと手渡される。
「えっ、でも」
「お願いっ！」
　女の子にそうまで言われると、ジェントルな男の子である修は弱い。
「わ、わかった。これはボクに任せて！」
　こくと頷けば、寧々子は「ありがとう」と笑って園庭へと駆けていってしまった。
　２人分に増えたプリントの束を手に、修は島岡先生の顔を再び見上げる。
「先生……」
　本当はボクも、泣いている子の所にとんでいきたかった。
　修の顔に浮かんだ表情をきちんと見て取って、島岡先生はふんわりと微笑む。
「女の子のお願いを聞いてあげて、八神君は偉いですねぇ。かっこよかったですよ～」
　先生も助かります、と付け足されて、修の顔に瞳にまたきらりと光が灯る。
「ボク、ちゃんと２人分プリント運ぶよ。だって、約束したから！」
　にっと零れた明るい笑顔に、島岡先生もにっこりとした。

　外廊下からとび出した寧々子は、泣き声の方を目指して懸命に走った。
　泣いたり困ったりしている子がいると、放っておけない寧々子なのである。
　園庭へと辿り着けば、わんわん泣いている碧南と彼女の前に立ち塞がる男の子の姿が目に入った。
「ダメだよ、女の子が嫌がることしちゃ！」
「お、俺は別に……つーか、邪魔すんなよ！」
「邪魔するよ！　お友達が泣いてるんだもん！」
　バチバチと、寧々子と男の子の間に火花が散る。
　口をへの字に曲げた男の子は、ビシッ！　とジャングルジムを指差した。
「勝負だ！　どっちが先に一番上まで登れるか！」
「その勝負、受けて立つよっ！」
　寧々子が応えるや否や、２人はほとんど同時にジャングルジムへと駆け出して。
「がんばってー！」
　碧南の精一杯の声援を背に受けながら、寧々子は小さな手を必死に動かして、幼稚園児にとっては塔のように高い遊具をぐんぐんと登っていき――ついに、男の子よりも早く天辺へと到達する。
「私の勝ちっ！　ほら、もう意地悪はダメ……」
　そこまで言ったところで、冷静になった寧々子の顔からすうと色が消えた。
（た、高い……どうしよう、降りられないよぉ）
　遊具を握る手が震える。恐怖に、寧々子の瞳からはぽろぽろと涙が溢れ出した。
「たいへん……せんせいをよんでこなくっちゃ」
　寧々子の異変に気づいた碧南が、手の甲でぐいと涙を拭って身を翻した、その時。
「ふむふむ。いいね。勇気のある行動、まさにラブ＆ピースだ」
　にっと碧南に笑いかけその頭を優しく撫でたのは、泉先生だ。
　泉先生は後は自分に任せるよう碧南に告げると、ジャングルジムの真下まで歩み寄り、その天辺で泣きじゃくっている寧々子へと骨張った手を差し伸べた。
「おいで。君は勇敢だ、君ならできる」
「で、でも、怖いよぅ……」
「何、大抵のことは頭で考えているほど大層なものじゃない。常識はぶっ飛ばせ！」
　寧々子にとって、泉先生は何だかちょっぴり怖い存在だ。
　けれど今は、先生の力強い声が、寧々子のために差し出されたその手が頼もしい。
　気がつくと――寧々子は泉先生の腕の中にいた。
「よく頑張ったな」
　自身に向けられた無邪気な子供のような笑顔と投げかけられた言葉が嬉しくて、寧々子はもう涙を零すことはやめて泉先生の胸に顔を埋めるのだった。

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