あつまれ☆サンマ幼稚園｜リアクション

あつまれ☆サンマ幼稚園

　ここは、サンマ幼稚園こねこ組の教室。
　たくさんのお友達がめいめいに好きなことをしている中で、大天使天吏はひとりで絵本を読んでいた。
（鳥さんはいいなぁ……）
　灰色の双眸をうっとりとさせて、絵本の中、大空を翔ける鳥を見つめる天吏。
　彼女の傍らに山積みにされた絵本たちの共通点は、自分の名前を書けるようになって間もない５歳の子供でもひとりで読める簡単な物であることと、１冊も漏れることなく鳥が登場する物語であることだ。
　天吏は、人と一緒にいるよりも鳥を見ている方が楽しいという女の子なのである。
（この鳥さん、お庭にいないかな？）
　絵本の世界を飛び回る、見惚れるような瑠璃色の小鳥。
　その姿を探そうと、天吏は絵本を胸に抱えたまま教室の外へととび出した。

　同じ教室で、八神修は泉竜次先生の言葉に瞳を輝かせていた。
「どうして冬は早く暗くなってしまうんだろ」
　なんて、修が好奇心いっぱいに問いを零したところ、
「なら、一緒に調べてみよう」
　泉先生はにやりと悪戯っぽく笑って、ちょっと難しそうな本をたくさん持ってきた。
　そうしてまるで２人ともが子供のように知識の探究（と、泉先生は言った）に夢中になっていたのだが。
　――パタン。
　扉の音に、修はハッとして顔を上げた。
　ふと辺りを見渡せば、先ほどまで床に座って絵本を読んでいた天吏がいなくなっている。
「先生」
　修は、一生懸命に画用紙に図を描いていた手を止めて泉先生に訴えかけた。
「ひとりでお外に出ちゃった子がいるよ。ボク、探しに行きたい！」
　女の子をひとりで放ってはおけない！　と意気込む修に、
「いいね、ラブ＆ピースだ」
　と、泉先生はくいと口の端を上げてみせた。

（鳥さん、いないなぁ……）
　一方の天吏は、賑わう園庭を頭上や木の上に瑠璃色を探しながらてくてく歩き、気づけば朝潜った門の前に。
（……この向こうになら、鳥さんがいるかもしれない）
　天吏が園の外へと一歩踏み出そうとした、その時。
「お外はだめだよ！」
　後ろから大きな声が聞こえて、天吏はくるりと振り返った。
「お外は、ひとりじゃ、危ないよ」
　真剣に訴えるのは、天吏のことを探していた修である。
　息が切れているのは、天吏を探して走り回っていたせいだ。
　瑠璃色の小鳥がいるかもしれない園の外をちらと見遣って、天吏は仄か表情を暗くした。
（鳥さんは自由に空を飛べてどこにでもいけるのに、私はなんで鳥さんじゃないんだろう……）
　そんなことを思って、幼い心を沈ませる天吏。けれど。
「あっ、見て、あんな所に鳥がいる！」
　修が、すぐ近くの木の上を指差した。
　そこにいたのは絵本で見た鳥ではなかったけれど、渋い緑色の小鳥の愛らしい姿に天吏は先ほどまでの悩みなど忘れて夢中になる。
「スズメでもカラスでもないなあ」
「あの鳥さんはメジロっていうの。ほら、目の周りが白いでしょ？」
　首を捻る修へと、天吏はちょっと誇らしいような気持ちでそう言った。
　だって、天吏が鳥に明るいのは、大好きなお父様が教えてくれたからなのだ。
「すごいね、詳しいんだ」
「お父様に聞いたの。あのね、私の眼、お父様とお揃いなの。綺麗な色、私大好き」
　淡々とした喋りで表情にもあまり変化はないのだが、お父様のことを話す天吏はどこか嬉しそうで、思わず話を聞いている修まで笑顔になってしまう。
（ああ、お父様に会いたいな。早く帰りの時間になったらいいのに）
　そんなことを思って、天吏は自分の心をそれこそ鳥のように遠く遠く飛ばすのだった。

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