クリスマスを飾ろう！｜リアクション

クリスマスを飾ろう！

　夕方——。
　日暮ねむるは商店街のいつもと違う様子に気づいて、掃き掃除の手を止め、そして思い出す。
　——そういえば今日はクリスマスの飾り付けの日だった。
「年末シーズンは繁忙期と重なるし、後々片付けるのめんどくさそうだねぇ……うちはいいや。電気代馬鹿になんないしねぇ」

　ぼんやり独り言を呟いて、また掃除を続けようとしていた時、彼は少女にじっと見つめられている事に気づいた。　
　近所に住んでいる、小島海美だ。
　クリスマスの飾り付けを楽しみに歩いていた彼女は、ねむるの寝具や『ふとんのひぐらし』を前に硬直している。
　挨拶がてら「枕でも買ってく？」と冗談めかしたのに、少女の目はマジだった。
　あ、これ洒落にならないぞ。と時や遅し。海美の口から次々に言葉が飛び出す。
「ねむる君、なんでおふとんやさんなのにクリスマスツリーかざってないの？」
「サンタさんはねてるときにくるんだから、おふとんやさんがしっかりしてなくちゃダメでしょ！」
「ちかはパソコンのおみせでしょ！　でん気たく山つかってるでしょ！」
「クリスマスツリーもかたづけれなかったら、おふとんなんてもっとかたづけれないでしょ！」
「ツリーかえないくらい、おふとんうれてないの？」
　怒涛の勢いでせめられ、ねむるは完全に論破された。小さな女の子を前に結局彼が言えたのは、これだけだ。
「はい、よろこんで働かせて頂きます」
「じゃあきまり！　わかんないとこはわたしがおしえてあげるから！」

　とは言っても海美を満足させられそうな飾り付けは、少女と高校生二人では荷が重い。
　ねむるは幼馴染の山田勘三郎と八神修へ手伝い依頼のメールを送る。
「暇だし、バイトは大歓迎。今日はよろしくな」
　早速やってきた勘三郎にそう言われ、ねむるは彼の耳元に口を寄せる。
「悪いが財布事情が芳しくなくてね最低賃金で頼むよ」
　潜めた小声で言われて、勘三郎は笑って返した。
「実は俺、店とかの大きなクリスマスの飾りをやるの、小さい頃からの憧れだったんだ。喜んで手伝うぜ」
　一方もう一人の修は、手に緩急材のようなものを携えていた。　
「おや、装飾にでも使うのかな？」
「寝具店だろ。だからふとんカバーにこれを四角く貼り合わせて詰めたら良いディスプレイになると思うんだよ。
　綿や毛の中身だと重すぎるからさ、エアピロー緩急材にした」
　緩急材をもふもふしながらそう説明する彼へ、海美は「おふとんで？　へんなの！　でも、おふとんやさんらしいし、おもしろそう！」と喜んでいる。
　あまり想像の付かないものは完成するまで彼に任せるとして、さあ飾り付けだ。
　ねむるがのろのろながら動き出していると、勘三郎が背後からこっそり肩を叩いて合図してきた。
「しかしねむっち、バイト代大丈夫なのか？　足りない分は食いモンでもいいぜ？」
　先程の説明はうまいこと流してしまったらしい。
　ちゃっかりした幼馴染の笑顔に、ねむるはため息を吐き出しつつも苦笑していた。