寝子島っ子集まれ！　餅つき大会｜リアクション

寝子島っ子集まれ！　餅つき大会

○いただきます！

　そこへ蓮が新しい餅を持ってきた。
「猫ですか。そういえば、犬や猫が玉ネギを食べると溶血性貧血を起こしますね。いわゆる玉ネギ中毒です」
　唐突に聞こえるが、専門の話なのでジェレミアが反応する。
「そうだね。人間には害がなくても、ペットに害があるものはけっこうあるんだ」
「これは玉ネギが自分自身を守るために毒を持ったためです。人は玉ネギの有害成分に耐性があるため、大量に食べなければ、たいていの場合、害はありません」
「まあ……鳥さんにも悪いのでしょうか？」
　蓮とジェレミアの会話に時子が加わった。
「鳥にも害になるよ。玉ネギは生、加熱調理された状態、または乾燥状態であっても与えちゃいけない」
「気をつけなくてはなりませんね」
　時子はジェレミアの説明を神妙に聞いている。蓮は続けた。
「また、微量なので実害はありませんが、ほとんどの野菜には、有害な発がん性物質が含まれています。例にあげるとコショウにはリモネン、ゴマにはセサモールですね」
「怖いですね……野菜は体にいいと思っていました」
　時子が言う。脅かすつもりではない。蓮は穏やかに語る。
「人は食中毒にならないよう品種改良や栽培・調理の工夫をしています。加熱調理も食中毒を防ぐ代表的な調理法ですね。……おっと、私が餅をつく番でした」
　蓮は餅つきに戻っていった。
「私はお米を作った農家はもちろん、命をいただく米自身にも感謝を込めて、もちをつきます」
　相撲部や農作業で鍛えているので、蓮の餅つきは堂にいっている。
「なかなか米粒の形がなくなりませんね。おもちになるまで根気よくつきましょう」

「味付けはお好みでどうぞ。黄粉も餡子もあるよ」
　月詠が子供たちを誘導する。
「いただきます……」
　時子が手を合わせると、子供たちも真似をする。
「月詠さんは食べないんですか？」
「私は黄粉か、醤油で焼いて食べたい。スタッフなので参加者に振る舞った後に貰うよ」
「ありがとうございます……お先にいただきますね。みんな、喉につまらないように良く噛んで少しずつ飲み込んでね」
　そういいながら、時子は子供たちの食事に目を配る。
　口の周りに付いた黄粉を、優しくハンカチで拭いてあげた。
「磯部揚げやあんこも美味しいですね……」

　調理スペースには、たくさんの食材や調味料が揃っていた。
「黄粉やずんだ、あんこなどを絡ませたり、焼いて磯辺焼きにしたり砂糖醤油に絡ませたりするのもいいけど、やっぱりお汁粉もいいよね」
　水樹はもちを使ってお汁粉を作ることにした。
　調理法もシンプルですぐに食べられるのも魅力的だし。それにそろそろ本格的に寒くなるこの時期、身体の温まるものを食べたい。
「砂糖は控えめにしたいわね。ベタ甘になったらせっかくの餅が台無しになるし」
　スタイル維持のためにも糖質は少ないのに越したことはない。
　煮立てた小豆の味見をしながら水樹はつぶやく。
「……甘さはだいたいこんなものかな」
「どれどれ……うん、上品な味だね。今時の子はこのくらいのほうがいいね」
　隣にいたスタッフのおばちゃんも味見して、にっこりとＧＯサインを出してくれた。
　水樹は出来上がったお汁粉を器によそい始めた。
　子供たちやおばさんが集まってきて、みるみるうちにお汁粉は減っていった。
「美味しい！」
　餅つきを終えた翠響もお汁粉を食べていい笑顔になった。
　なんといっても思い切り体を動かした後だから、何を食べても本当においしい。
「次は黄粉にしようかなー、あ、磯辺焼きもいいなあ」

　途切れた頃に交代してもらい、ようやく水樹も餅を食べることができた。
「ふう、あったまったわ」
　余り食べ過ぎないようにしなくちゃ、と思いつつ。
「もう一個くらいならいいわよね……」
　スタイルを気にしつつも、厳選して、美味しいメニューを食べようと思う水樹だった。