寝子島っ子集まれ！　餅つき大会｜リアクション

寝子島っ子集まれ！　餅つき大会

○ついたら丸めます

　こうして第一弾の餅がつきあがった。
　月詠は落とさないようにもちとり粉を敷いた餅箱・調理台へ運ぶ。
　次の為に杵と臼は湯につけておく。
「まずは、丸めるぞ」
　月詠の声に、ちかが喜んでやってきた。
「ちか、まるめるんもうまいで。どろだんごづくりチャンピオン（？）やからなー」
　手を洗って拭いた後、湯気のたつ餅に手を伸ばす。
「こうやってな、手でまるめ……あつ!!」
「気を付けないと火傷するぞ」　
「まだあついでこれ、きーつけんなあかんわ」
「大丈夫ですか？」
　時子が駆け寄る。
（危なくないか作業は見ていたいですね）
　と思う時子。
「だいじょうぶや、こんなで泣けへんわ、ふーふーしたらしまいや」
　幸い火傷には至らなかったようだ。
「先に餅にもちとり粉をまぶす」
　月詠が説明し、時子も加わって小さい子に丸め方を教え始める。
「手にも粉を付けて、ちぎって丸めますよ」
「千切った部分が下になるようにすると綺麗に見える。片手の平にのせてもう片手で餅を覆い、ちょっと潰しながらコロコロするといい」
「ほんとだ、すごい」
　年長の子が感心する。一方、小さい子は時子の袖を引いた。
「お姉ちゃん、粉が服についちゃった」
「あらあら、今拭いてあげますね」
　時子がハンカチで優しく粉を落としてあげる。
「小さい頃は餅つきをしてたので思い出しますね。丸めたりくっつかない様に並べたり。綺麗な丸にするのって難しかったです」
　この子達もいつか懐かしい思い出として、今日のことを覚えていてくれるだろうか、と時子は思う。
　子供達は月詠の教えるコツに感心したり、優しい時子に面倒を見てもらったりしながらお餅を丸めた。

「ここの人たちは皆元気みたいだね」
　獣医のジェレミア・ベルトーニは、餅つきに来ている人たちを見回し頷く。
　獣医ではあるが、自身の健康にも気をつけなくてはならないし、周囲の人たちの健康を無視するわけにはいかない。
　顔色をチェックするのは職業柄……
「お嬢さん、お茶をご一緒しませんか」
　――だけではなく、女性に声をかけるのが礼儀のお国柄もあるようだ。
　声をかけられた寧々子は目を白黒させた。
（けっこうかっこいいけど、餅つきの会場でお茶ってどうなの……）
「え、私？　えーと、スタッフなんで手が離せなくて」
　そこへおばちゃんが声をかけてきた。
「これから甘酒ができるから、ちょっと待ってね」
「それは楽しみだ。ではそれまで、餅を丸めていようか」
　ジェレミアが餅を丸めている台のほうに向かう。

「ほら、おもちだるま完成や。かいらしやろ？　ねえちゃんにもつくったろか？」
「snowman rice cake デスカ！」
　ちかが丸い餅を重ね、トワが歓声をあげた。
「ほう、可愛らしいね」
　ジェレミアがにこやかにほめる。
「にいちゃんもか？　えへへ、まっときまっとき、かいらしのんつくったるわな」
　嬉しそうなちかに頷きながら、ジェレミアは言う。
「つきたてのお餅は猫に似ている気がしないかい？」
「え……そういわれたら、白くてやわらかそうやな」　
　ちかが頷く。
「夏に暑くて伸びている白い猫がおもちにそっくりな気がしてね。だからこのお餅をまるまった猫のように形作りたいな」
　ジェレミアは丸い餅を少しつまんで耳を作る。
（リアルだとドン引きだから、何となーくそれっぽい？　ってレベルでいいんだ）
　くるん、と体を抱え込んでアンモナイトみたいにまるくなっているにゃんこなイメージのお餅を作りたい、とジェレミアは思う。
　ジェレミアの手が魔法のように猫の体を形作る。
「頸のくびれをつくって、可愛く曲げたお手手と脚、しっぽをかるく雰囲気で作って出来上がり」
「うわあ、かいらしかいらし！　今度白猫におみかんのせて鏡もちにしたろ」
　ちかや子供たちが目を輝かす。
「白いままなら白猫。醤油でぶち猫。きな粉で茶色猫になるよね」