寝子島っ子集まれ！　餅つき大会｜リアクション

寝子島っ子集まれ！　餅つき大会

○スタッフ急募！

　日曜日の海浜公園。風もなくおだやかな冬の日、毎年恒例の地域の餅つき大会の準備が始まっていた。
　しかし、割烹着や三角巾に身を包んだおばさん方の表情が少々冴えない。
「くよくよしてもしょうがないよ、手伝いを集めればいいんだろ」
　元気なおばちゃんが声をあげた。
「どうかしたのかい？」
　スタッフとして参加している、エプロンと三角巾姿の旅鴉月詠が尋ねる。
「実はスタッフ２人が急な体調不良で来れなくなってね」
「ふむ。人を呼べないこともないが、参加者に手を貸してもらってもいいんじゃないか」
　周囲を見回しながら月詠が言う。
「そうだね。あたしはその辺を歩いてる子をスカウトしてみるよ」
　木鈴寧々子は、たまたま海浜公園近くを通りかかっていた。
（人が良くてのんきそうな子だね。急いでもいないみたいだ）
　おばちゃんが気さくに声をかける。
「そこのお嬢さん、手伝ってくれないかい？　お餅が食べられるよ」
「お餅？」
　その言葉に少々気持ちが動いたらしい寧々子の様子を、おばちゃんは見逃さなかった。
「そう、スタッフが急病でね。これも何かの縁！　あんたが来てくれたら助かるよ、エプロンは予備があるからさ」
　あれよあれよと言う間に寧々子はスタッフとして引き入れられたのだった。

「餅は食べるだけでなく、作る過程がいいのだ。湯が沸いたから、もち米を蒸すぞ」
　月詠は手順を心得ている。
　寧々子に指示して一緒に蒸し器にもち米をセットする。
「もち米は前の晩に水に浸しておくんだ」
　クールな男性口調にちょっと戸惑いつつ寧々子は尋ねた。
「蒸すのってどれくらいかかるの？」
「４５分くらいかな」
　時計を見ながら月詠が答えた。
　
　少しずつ参加者が集まってきていた。
「おはようございます。皆さん、朝早くからお疲れ様です。よろしくお願いします」
　礼儀正しく挨拶するのは森蓮。
　坊主頭にタオルを巻き、手を洗う。
「みーんーなーで　オモチ　食べるヨー！　もっちもっち」
　金髪ポニーテールの４年生、トワ・E・ライトフェロゥが走ってきた。
「生徒会室にやってきた迷子の方ですね」
　トワに見覚えがあった蓮が声をかける。
「セートカイカイギではなしてた人デス！」
　トワも坊主頭の蓮は印象深かったのだろう。
「ちかも、おもちつきよせてー」
　明るく声をかけてきたのはゴーグルを頭につけた小学２年生の苑下ちか。
「こないだ、うちでもやってんけどな。かいしゃのひとがぜーんぶついてもて、ちか、つかせてもらわれへんかってん」
　ちかの家は星ヶ丘にある工務店だ。
　楽しみにしていた餅つきなのに従業員のおじさんたちは、目を輝かせて寄ってきたちかに、危ないから離れていなさい、と言うばかりだった。
「わかってへんよなー、おとなて」
　ちかはふくれっつらで皆に不満を訴えるのだった。
「それは残念でしたね。きっとケガをしてはいけないと心配だったのでしょう」
　蓮が優しく言う。
「それはわかるけど、むっちゃやりたかったのに。ほんまやで。今日こそつくでー」
　ちかはやる気満々のようだ。

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