寝子島っ子集まれ！　餅つき大会｜リアクション

寝子島っ子集まれ！　餅つき大会

○餅つき、スタート！

「子供用の杵はこれですね」
　蓮が小ぶりの軽い杵を持ってきてくれた。
「これやこれ。ほないくでー」
　重さを確かめると、さっそく杵を振り上げるちか。
「それじゃ、あたしがこねるわ」
　翠響が上着を脱いで、服の袖をまくる。
「気をつけてくださいね……」
　時子が心配そうに声をかける。
「大丈夫、新体操で反射神経には自信があるのよ」
「ぺったん！」
　子供用とはいえ小さなちかにはやはり重い。よろけそうになるのをぐっとこらえて杵を振り下ろす。
「よいしょ！」
　周りで見ているみんなが声をかけた。
「杵の重さで落とすようについてくといいよ。杵に餅がくっついて落下することがあるから気をつけて。こね手も手早く。杵に潰されないようにサッとね」
　月詠が指導する。　
　こねるのも見かけによらずハードな運動だが、要領がいい翠響はなんなくこなしていた。

「久しぶりね。あら、今は子供用の杵もあるのかしら」
　女子大生モデルの城山水樹は、餅つきのテントへ向かいながらつぶやいた。
（去年はモデルの仕事で参加できなかったし、２年前は風邪をひいてダメだったのよね）
　子供のころ、もちつきの季節になるとはしゃいでいたのを思い出す。
　自分ももちを杵でつきたかったけど、小さな女の子には少し荷が重すぎた。
「男の子に生まれてたら思いっきりもちを杵でつけたのに」
　とか言って一緒に来た親を困らせたものだ。
「水樹が餅みたいにふくれてる。ついちゃうぞ」
　なんて、５歳年上の兄貴にからかわれたりしたっけ。
（今はいい思い出ね）　
　現在は仕事柄、もちをつく側に回って怪我をしたら大変なことになるのでもちを調理する側に回ることにした。
　残念と言えば残念だけど仕方ない。
　
「ふう、みんなもやりたいやろから代わるでー」
　数回つくと、ちかは杵を離した。
「それでは、私がやってみてもいいですか？」
　時子はちかの使っていた杵を手に取り、翠響に声をかける。
「休憩しなくて大丈夫ですか？」
「平気平気、体が温まってきていい感じよ」
　額の汗をぬぐいながら翠響が笑顔を見せる。
「それではお願いします」
「よいしょ！」
　時子は翠響と息を合わせてリズムよく餅をついていった。
「つき足りないと崩れてしまう。つきすぎると柔らかすぎてコシがない。おや？」
　説明する月詠の目が、崩れた餅の一部に留まった。
「あら、これは……」
　時子の顔が赤くなった。
　崩れた餅の一部が、なんだか尚輝先生の顔の形に見えたのだ。
（つきながら先生にもお餅を食べて頂きたいと思ったからでしょうか？）
　照れる時子に、月詠がにやりとして言った。
「ふむ。それは君が持っていくといい」
「あ、ありがとうございます……」
　そっと布巾に取り上げ大事に包んで、時子は迷う。
（さて、どうしましょう。食べるわけにはいかないですよね……）

「次はあたしがつくねー」
　翠響が杵を取る。
「それでは私がこねましょう」
　蓮がこね手に回り、翠響は気持ちよく餅をつき始めた。
「よいしょ！」
　周囲の声援が気持ちいい。
　臼に杵が当たり響く木の音もいいし、うまく餅に当たったぺったん、という音も気持ちいい。
　そして杵が柔らかい餅にめり込む感触。
（さすがに男の人みたいにガンガンつけるわけではないけど、最高の気分！）
　冬に腕まくりしているけれど、かえって暑いくらいだった。

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