お伊勢参りと食べ歩き｜リアクション

お伊勢参りと食べ歩き

●祈ることは

「あはは、遂に来ちゃった」

　お伊勢さん、伊勢神宮の鳥居と宇治橋を前にして、どこか憂いを含んだようにも見える笑みを浮かべるのは十文字若菜だ。お伊勢参りの特集が組まれた雑誌を見て、その翌日には列車とバスを乗り継いで来てしまったのは衝動的だったとしか言いようがない。
　どうしてそんなに、この場所へ行きたいと思ったのか――。
　ろっこん絡みの事件で色々あって、無性に祈りたい気持ちになったからかもしれない。そしてここが、天照大御神を祀る場所だったからだと若菜は思う。寝子島にも神社はあるし、近場にだってあるけれど……どうせ祈るのであればこの日本で一番の神様に祈ってみたくなったのだ。それから、自分のことを誰も知らない場所で……という思いもあったかもしれない。

「さぁ、それじゃ参拝しにいこうかな」

　既に沢山の参拝客が宇治橋を渡っている。その流れに乗るように、若菜も足を踏み出した。橋を渡り、玉砂利の道を人の流れと案内板の矢印を頼りに歩く。ジャリ、ジャリ、と鳴る音が悩みや自分はどうすればいいのかという思考を助けてくれているような気がして、若菜は白い息を吐きながら歩き続けた。
　――――無畏を求めたのは強くなりたいから。
　でもそれは、ただ無闇に力を求めたのではない。”誰か”を守りたい、”普通”を守りたい、”自分らしく”ありたいからだ。

「ここかな」

　手水を済ませ長い道を歩き、皇大神宮……御正宮とも呼ばれる天照大御神が坐ます場所へと辿り着く。石段を上りその御前に立つと身が引き締まるような気持ちになって、若菜はお賽銭を投げ入れると二拝二拍手を行ったあとに手を合わせ、目を閉じた。
　――――これからもっと大変なことになると思う、でもどうか。
　どうか皆を守れますように。
　自分を守れますように。
　譲れないものを守れますように。
　ただひたすらに若菜は祈った。
　神頼みをしたから何かが起こるというわけではないことを若菜は知っている。けれど、祈りたい時があるのだ。無償に、ただひたすら、今みたいに。
　――――私は負けないよ。そう自分自身に誓うと、若菜は閉じていた目を開く。そうして、もう一度深くお辞儀をすると前を向いて歩き出す。深い意思を感じさせる眼差しに、もう迷いはない。
　何ものをも畏れないことは、自分を強く信じるということに似ている。そう、若菜は感じていた。
　参拝を終えた帰り道、神札授与所でお守りを眺めながら厄除けのお守りをなんとなく、二つ授与してもらう。それから、折角ここまで来たのだから何か美味しい物を食べていかなくちゃとおはらい町を歩く。
　雑誌にも載っていた、伊勢に行くなら絶対に食べたい物TOP5！　にランクインしていた紅福は沢山の人が並んでいたけれど、販売員の数も多く、手慣れている為にそれほど待たずにゲットすることができた。お店の中で頂く餡餅は三重県産の伊勢茶が付いていて、上品な甘さの漉し餡とすっきりとした味わいのお茶がマッチしていて若菜の心を満たしてくれる。

「んん～～美味しい……！」

　三個入りの餡餅をあっという間に平らげて、次はコロッケと足取りは軽い。食べ歩き、と思ったけれどサクサクでジューシーなミンチカツもアツアツホクホクのコロッケも、どっちも餡餅同様あっという間に食べてしまった。

「買ってよかったぁ……！」

　口元を拭いながら、これはまだ食べてない人がいたらお勧めだよって教えてあげなくちゃ！　と思うほど。帰りの時間まではまだ時間があると、若菜は意気揚々とまだ見ぬ味と出会いを求めておかげ横丁を歩くのだった。

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