お伊勢参りと食べ歩き｜リアクション

お伊勢参りと食べ歩き

●先生といっしょに

　寝子島に住む親戚が、懸賞で当てた旅行チケットがあるけれど一緒に行く人もいないし、良かったら貴方たち姉妹でいってらっしゃいとチケットを譲ってくれたのが先週の話。そして行き先が姉と二人で行きたいねと話していた伊勢で、それならとやって来たのが今日。
　一泊二日の旅行、一日目の午後。体が余り丈夫ではない姉は、午前中に回った外宮で疲れてしまったみたいで宿で休んでいる。なので明日、姉と内宮へ来る為の下見を兼ねて勅使河原悠は一人でおかげ横丁へとやって来ていた。

「結構人がいるのね……」

　平日でも結構な人出があるこの場所は、週末ともなれば言わずもがなである。だから、悠は見間違えだと最初は思ったのだ。まさか、寝子島を遠く離れたこの伊勢の地で知っている顔……それも先生である永田孝文を見掛けるなんて。
　見失いそうになって、悠は慌てて追いかける。追いかけながら、先生も旅行中なら声を掛けるのは迷惑にならないかとか、もしも違う人だったらどうしよう、なんて考えが頭をよぎる。
　違い人だったらごめんなさいと謝ろう、迷惑そうだったら引き下がろう、そう考えながら思い切って声を掛けたのは見知らぬ土地に一人で、少し心細かったからかもしれない。

「あ、あああの、永田先生……？」
「ん？」

　授業中に聞く、あの落ち着いた声を聞いて悠は永田先生だと確信する。顔を見ると、孝文も少し驚いたような顔をしながらも、

「勅使河原？　珍しいところで会うもんだな」

　と名前を呼んでくれた。それだけで少し安堵し、嬉しくなりつつも悠はなんとか会話を続ける。

「私は、旅行で……永田先生も、旅行……ですか？」
「あぁ、そうだ。前から来ようと思ってたんだが雑誌で特集を見てな」

　同じ雑誌を見たのかもしれないと思うと、なんだかほっこりして悠は少しだけ緊張が解れるのを感じる。
　
「勅使河原も一人なのか？」
「あ、姉と来ているんですけど……」

　姉は宿で休んでいること、その間にお土産を買ったりできるなら下見をしておこうと思ったことなどを話す。

「お姉さん思いなんだな、それで一人なのか」
「そんなこと……あ、はい。あの、先生は……？」

　そう聞くと、にやりと笑って一人だと答える。それから少しまごついている悠に向かって、

「俺も一人だ。よかったら少し一緒に見て回るか？　こんなところで会ったんだ、これも縁って奴だろう」
「い、いいんですか……！　嬉しいです……！」

　もしかしたら、悠が一人で心細くなっていたのを見抜いてくれたのかもしれない。孝文の真意はわからなかったけれど、誰かと並んで歩けるのは嬉しいことなのだと悠は思った。
　明日、姉と一緒に来るということを考えてくれたのか、内宮の中には行かずおかげ横丁をぶらりと歩きながら伊勢神宮についてを教えてくれたり、内宮には神馬と呼ばれる馬が厩にいることがあるとか、鶏が歩いているなんて小ネタも教えてくれた。
　お土産物屋もいくつか見て回り、おかげ犬のサブレや可愛らしいストラップやお香と気になるものを買ったりと楽しい時間を二人で過ごすことができた。

「勅使河原、喉渇かないか？　ちょっとお茶していこう」
「は、はい！」

　紅福は明日お姉さんと食べるといいと、孝文が案内してくれたのは五十鈴川に面したカフェだ。美味しいコーヒーとスイーツが食べれると人気のお店で、少し並んで席に座ることができた。

「先生、今日はありがとうございました」
「どう致しまして、俺も思わぬ道連れができて楽しかったよ」

　静かにコーヒーを飲む先生の眼差しは優しい。悠は明日お姉ちゃんにどうやって今日のことを話そうかと思いながらケーキを口に運んだ。
　傍を流れる五十鈴川の流れは穏やかで、悠にとって思い出に残る一日になったようだ。

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