俺様の前にひれ伏せ！第一回世界支配者大会、開催！｜リアクション

俺様の前にひれ伏せ！第一回世界支配者大会、開催！

【お猫様達の世界】

　後木真央はお猫様の世界の支配者だった。
「Ｌ（エル）！　Ｏ（オー）！　Ｖ（ブイ）！　Ｅ（イー）！　ラブリーおネコさまなのだぁぁぁ～」
　というわけで、真央は世界の中心でお猫様への愛を絶叫していた。
　それはもう、どちらかというと猫が支配者で真央がその下僕のような感じであった。
　猫王の玉座では、むっちりもっちりとした大きなでぶ猫様が王冠をかぶりながら、にぼしを齧り、
「猫王様マジステキなのだ！　今日は気温高めだから真央ちゃんが団扇で扇いでさしあげますなのだ！」
　真央はその下僕として甲斐甲斐しく働く。
　一方、猫の貴族達はのんびりと道路の真ん中で寝そべってひなたぼっこをしている。
「アスファルトの上で大の字になって寝こけるお猫様かわゆ過ぎるのだ！　スマホで激写なのだ！」
　お猫様、お猫様と連呼して激写しまくる真央は、世界の支配者というよりグラビアアイドルを撮影しているカメラマンのおっさんそのものであった。
　真央はさらにお猫様達の集会場に突撃すると、一匹一匹のお猫様の毛を丹念にブラッシングし、そしていつでも持参のカツブシ粉とにぼしを献上し、ときには秘伝のマタタビも惜しげもなく差し出した。
　真央はお猫様が幸せなら幸せだった。
「まさに圧倒的至福なのだ真央ちゃん人生大勝利なのだ～」
　いまにも極楽浄土に逝ってしまわれそうな表情を浮かべる真央。
　と、そこに次元の扉を開いて現れた全能の神（自称）の八神修が現れる。
「……ここは、猫の世界か。ああ、うん。やはり真央の世界だったんだな」
　猫で溢れかえる世界をぐるりと見渡し、最後に現実の寝子島ではよく見知った仲である真央の姿を見た修は納得顔で二度三度頷く。
「むむ！　修ちゃんもお猫様の下僕になりにきたのだ？」
　真央は手近な猫をぎゅっと抱きしめながら、瞳をらんらんと輝かせて、修にそう問いかける。
　もうすでに自分で猫の下僕と認めてしまっているあたりに、彼女の猫愛偏差値の高さが見てとれる。
「……猫の下僕？　ああ、それも悪くないな。だが、俺は世界の理。それ以上でも、それ以下でもないのさ」
「え？　あ……お、おう、なのだ……」
　真央は手に負えないと感じて素直に引き下がった。
　今日の修ちゃん、まじパねぇ。
　それが、真央の素直な感想だった。
　と、そのときだった。
　突然、どしーんどしーんと巨人の足音のような轟音が響いて、一匹の子猫様が驚いて樹上に飛び上がってしまった。
「ああっ！？　た、大変なのだ！？」
　子猫様は跳び上がったはいいが、降りられなくなって困っていた。
　助けてやりたいのはやまやまなのだが、小柄な真央ではそこまで背が届かない。
　そのとき、歴史――ではなく世界の理が動いた。
「大丈夫だ。そこでじっとしていろ」
　優しく教え諭すような口調で、修は子猫にそう話しかけながら樹のそばまで歩いていく。
「お、おおっ！」
　真央が息を飲む。
　修はそのままそっと腕を伸ばして子猫を樹上から降ろしてやり、
「俺は世界の理。この程度のこと、望めば造作もない。だが、だからこそ、対立者など望むべくもなく俺は孤独だ。だから、俺は旅を続ける」
　憂いのある笑みをこぼしつつ、修はまた次の世界へと旅立った。その腕にはがっしりと猫を抱いたままで。
「…………」
　真央はそんな修の背中をしばし呆然と見送った後、

「ハッ……！？　さらっとお猫様持ってかれたのだ！？　あんまりにもナチュラル過ぎて流石の真央ちゃんも気づかなかったのだ！　ま、待つのだ、修ちゃん！　お猫様、カムバーーーーーーック、なのだぁぁ！！！」

　そうして、お猫様の世界には支配者こと下僕の悲痛な叫び声がいつまでも木霊したのだという。

　＊なお、お猫様はそのあと無事に真央のもとに戻ってきた模様。