俺様の前にひれ伏せ！第一回世界支配者大会、開催！｜リアクション

俺様の前にひれ伏せ！第一回世界支配者大会、開催！

【鳥達の世界】

　大天使天吏は彼女の理想とする世界の住人となった。

「ふふ。ついに愚かな人間ではなく、鳥さん達が支配する世界が訪れたのね」

　すなわち、それは鳥類が支配する世界だった。
　それまで支配者の座に君臨していたはずの人類の地位は地に落ち、彼らは世界のヒエラルキーの最下層に位置していた。
　廃墟と化したシーサイドタウンの街並にはほとんど人の気配がなく、いたとしても彼らは支配者たる地位に君臨する鳥達の下僕でしかなかった。
「ついに私の夢が叶ったのね。いいえ、違う。これは初めから約束された結末だったのよ」
　それは多くの人間にとっては破滅後の世界とでも呼ぶべきディストピアであったが、天吏にとっては紛れもないユートピアであった。
　ゆえに彼女の表情はいつになく明るく、普段の彼女からは想像もつかないくらい生き生きとしていた。
　さっそく天吏は街を行きかう鳥達から話を聞いてみることにした。
　彼女は決して、この世界の支配者ではなく、鳥達の下僕として生きるその大勢の人間の一人にしか過ぎなかった。
「ねぇ、カラスさん。ごきげんはいかが？」
　天吏が道行くカラスに声をかけると、カラスは怪訝そうに眉をひそめ、
「なんだ、お嬢ちゃん。人間の分際で俺様に気安く声をかけるんじゃねぇ」
　と、不遜な態度を隠そうともせずに言う。普通の人間なら、焼き鳥にしちゃろかと思うところだが、天吏にとってこの反応はむしろご褒美だった。
（そう。これこそが鳥さんたちの本来のあるべき姿。人間を空から見下し、ときに憐れんだりもする――それが正しい姿。下等な人間達に住む場所を追われ、あまつさえ家畜として飼いならされているなんてありえないわ！）
　鳥に下等生物扱いされている人間（自分）という構図にちょっと天吏はゾクゾクしていた。ちょっとヤバいスイッチが入りかけているのかもしれない。
「ごめんなさい。それなら、お詫びと言ってはなんだけれど、私を貴方の家来にしてもらえないかしら？」
「ケッ。勝手にしやがれ」
　カラスは肯定も否定もせずに天吏の前から飛び立った。
　天吏はそれを「肯定」と受け取り、喜んだ。
「素晴らしいわ。これこそが理想の世界ね！」
　そうして、天吏はそれこそ裸足でスキップしかねない勢いで意気揚々と荒廃した街並を歩いていった。
　しかし、
「…………」
　彼女は、ふとあることに気づいて、その足を止めてしまう。
（けれど、私が望む世界なら……どうして私（人類）はまだ生き残っているかしら？）
　天吏が望む真の理想の世界とは人の支配から完全に逃れた鳥達だけの理想郷であるはずだ。
　なのに、この世界にはまだ人間がいる。
　もちろん彼らは鳥達の下僕に過ぎない存在であるが、それでも生きてここに存在している。
　その理由がわからない。

「やはり人類というものは――どこまでも愚かね」

　そんなどうしようもない真理に気づいてしまったことで、また彼女の表情には一瞬の憂いが戻る。
　だが、それも一瞬のことだった。
　少なくとも、今、この瞬間は、自分は鳥さん達に奉仕するために、楽しく生きている
　愚かな人間らしく地べたを這いつくばって、空を舞う鳥達の姿を見上げながら――。
　そうして、天吏は鳥の下僕として楽しい人生を送っていく。
「これを幸福というのね。楽しいわ。うふふ。あはは」
　彼女は笑う。
　現実の寝子島の誰に見せたことのないような顔で笑う。
　しかし、楽しい夢はいつか醒める。
　そのことをこのときの彼女はまだ知らない。