俺様の前にひれ伏せ！第一回世界支配者大会、開催！｜リアクション

俺様の前にひれ伏せ！第一回世界支配者大会、開催！

【ポニーテールの世界】

　そんなわけで、鎌八まもるも世界の支配者となっていた。

「……どういうわけかは知らないが、世界の支配者か。悪くない。特に響きがいい」

　まもるは現状を前向きにうけとめた。
　細かい文法とかはどうでも良かった。
　文法とかもはやそういうレベルの問題ではないのだとしても、それも些細な問題に過ぎなかった。
「というわけで、俺はこの世界の支配者として――全女子総ポニテ宣言を行うッ！」
　いつのまにか目の前に用意されていた校長先生が良く演説に使うアレの上に登ったまもるは大仰な身振りと手振りでそんな謎宣言を発令した。
　その刹那――。
「おおっ！」
　まもるは思わず目を見開いた。
　彼の目の前で彼の支配する世界の住人である女子達の髪型が、まるで魔法にでもかけられたかのように、みなポニーテールに変化してしまったからだ。
　ミニスカートに腰まで届く黒髪がセクシーなあの娘も。
　ボーイッシュな茶髪のショートカットにパンツスタイルがよく似合うあの子も。
　なんかもう足しか見えない巨人のあの子も。
　女の子はみんなポニーテールになったのだ。ん？　巨人？
「ふふっ。これが世界を支配する力か。悪くない。悪くないぞ、なぁ、キミもそう思うだろ、ベイビー？」
　パチンとここじゃないどこかにいる誰かにでウインクをして、まもるは全てがポニーテールになった世界に自分が存在している悦びに打ち震えていた。
「さて、それでは早速一人一人のポニーテールを観察するたびに出るとしよう」
　まもるはヒラリと無駄にカッコいい動きで演説台から飛び降りると彼の支配する世界をその目で見てまわることにした。
　そこには様々なポニーテールの女の子達がいた。
「丁寧にブラッシングしてワックスでぴっちり押さえたもの！　ゴールデンポイントでまとめたもの！　作業の邪魔だと無造作にゴムでまとめたもの！　あえて後れ毛を出したもの！　ネコの飾りのついたゴムでまとめたシンプルなポニテ！　全てベリーグッドだ。素晴らしい！」
　まもるはそんな女の子達のポニーテールのありようを一つ一つ吟味し、堪能し、瞼の裏に焼きつけた。
　それは彼にとってまさしく至福の瞬間にほかならなかった。
　あるいはもうこのままずっとこの世界の支配者としてその人生を終わりたい――そう思うこともあったかもしれない。
　しかし、
「……だが、違う」
　まもるは、ふとした違和感に気づいて、その場で立ち止まる。
「オレが望んでいたのはこんなものだったのか。いや、違う。ああ、全然違うね」
　まもるは、ふるふると頭を振って、その違和感の正体に気づいた。
「確かに、この世界はポニーテールに溢れている。彼女達のポニーテールは確かに美しい。だが、違う。オレが求めていたポニーテールとは決定的に『何か』が違う。その『何か』とは何か、オレは今ようやくわかったよ」
　それは、
「それはこの世界のポニーテールが支配者の恣意的なコントロールによって強制された――偽りのポニーテールだったからだ」
　……と、いうことらしい。いや、偽りのポニーテールて。
「ポニーテールが美しいのはそこに自然な美があるからだ。支配者に押しつけられたポニテはポニテじゃない」
　何でもかんでも自分の思い通りになることばかりが幸せじゃない。
　彼はそう気づいたのだった。
「だから、オレは元の世界に帰るよ。そうして、街角で見つけたポニーテールや、クラスメートの総髪――そういったナチュラルなポニテをオレは愛していこうと思う」
　パチン、とまた誰にでもなくウインクを決めて、まもるは突然目の前に現れた世界の扉をくぐり――夢から醒めた。