こどものころのおはなし｜リアクション

こどものころのおはなし

　８　別れた友人達に会いに

　本居陽毬は、２学期の後半――つまりつい最近、寝子島高等学校に転校してきた。
　新しく出来た友人に囲まれ、今日も元気に過ごしている。
「季節外れの転校の理由？　よくぞ聞いてくれたね！」
　学食でお昼を食べながら、陽毬は友人に嬉しそうに言った。
「実はね、占い師に『昔の友達には寝子島で会える』って言われて、それで両親を説得して転校してきたんだよね！」
「えっ」
「占い師？」
　寝子まんまやサンマさんランチを食べていた友人達は、大なり小なり驚いたようで食事の手を止める。彼女達が次に言うことを先取りするように、陽毬は続けた。
「そんなことで？　なんて言わないでね。私にとって、友達っていうのはそれくらい大事なものなんだから！」
　笑顔で力説する陽毬を前に、友人達は「そうか……」と納得したような、納得しきれないような複雑な表情を浮かべる。
　そんな彼女達に、陽毬は寝子高に来る前の話を始める。
「私ね、両親が転勤族で、そのせいで転校ばっかりしてたんだよね。ようやくその土地に慣れたかなー？　って思ったら、親の転勤が決まってハイ転校！　って感じ」
　正直、どこに住んでたかとか、あんまりよく覚えていない。小さい頃になればなるほど、記憶が曖昧だったり、ごっちゃごちゃになっている。
「だから、私にとって、お友達ってすごーく貴重で大事。転校する時は毎回辛くて辛くて、『また会えるよ、ずっと友達だよ』って約束して」
　泣きながら、友達と別れた。その土地で出来た、気の合った新しい友達と。
　その、繰り返し。
「そうかー……」
「それは、寂しいねー……」
　友人達は、しょぼんとした顔になった。寝子まんまとサンマさんランチは順調に量を減らしているが。
「距離の前に、子供の友情は無力だよね。約束したって、だんだん忘れていく。わかってる。結局、今、連絡取ってる相手なんて、前の学校のお友達くらいだよ」
「うん」
「そういうもんだよねー……」
　私も引っ越していった友達とか、今は全然だなー、と友人が言う。
　何だか、アンニュイな空気が漂い始めた。
「うん……。お引越しの理由はお仕事だから仕方ないし、両親が私に申し訳ないって思ってるのもわかってたけど、友達との別れだけは寂しかったな」
　話しながら、陽毬もちびちびと昼食を減らしていく。
　そうして、少し元気を取り戻して明るい声で彼女は言った。
「だから、胡散臭い占いにも縋るよ」
　相手が、自分を覚えていなくても構わない。
「『また会おう』って約束を果たすために、私はここに転校してきたんだよ」
「そっか」
「大切な友達がいるんだね……この高校で会えるといいね！」
　最初は、「占い？」と信じられないような顔をしていた友人達も、すっかり納得したようだった。
「ただ……」
　陽毬は、そこで照れたような笑みを浮かべて首を竦めた。
「問題は、私自身も、歴代の友達の顔も名前も一切覚えてないってことなんだけどね！」