こどものころのおはなし｜リアクション

こどものころのおはなし

　６　ＭｙＢｅｓｔＦｒｉｅｎｄ

　七雅麗音は、小さい頃から女の子に囲まれていた。１０歳違いの姉と、姉の友達と遊ぶことが多かったからだ。女の子な話し方ばかりの中にいたから、彼自身も自然と女の子な話し方になった。
　男の子では珍しい。けれど、家族や友達は普通に接してくれていた。
　だが、学校ではそうはいかなかった。
　彼を気味悪がっていじめる子達がいて、学校での毎日が苦痛だった。朝起きるのが嫌で、学校に行くのも嫌だった。
　高校２年になった今では、いじめもないし、朝起きるのも嫌じゃない。
　でも、当時はいじめられていることを家族には内緒にしていたから、それを表に出すこともできなかった。ずっと、何事も無かったように振舞っていた。

∞

「悪口陰口は勿論のこと、挙句の果てには暴力まで振るってくる子達もいたなぁ」

　そう話す麗音の周りには、数人の女の子の友達が集まっていた。いつもと変わらない調子で話すからか、内容の割に暗い雰囲気にはなっていない。
「先生達には言ってたの？」
「ううん、言ってないよ。だって、言っても聞いてくれないし対処してくれないから」

∞

　先生はアテにならない。だから、日々耐えるだけだった。
（……やっぱりね）
　――中学１年の時。この頃、麗音は身長が低く、小柄体型で女の子っぽかった。
　登校して下駄箱を開けると、中にはゴミが入っている。毎朝のことだから、もう驚かない。だからと言って、ダメージがないわけでもない。
　無言でゴミをゴミ箱に捨てて上履きを履いて、手を洗って教室に行く。
　がらりと戸を開けると、それまでざわついていた教室がぴたりと静かになる。この頃は少しコミュ障だったから、「おはよう」も言えなくて。
　無言で自分の机まで行くと、そこには罵詈雑言が落書きされている。これも、毎朝のことだ。麗音は鞄を置くと雑巾を取って、机を拭く。しんとしていた教室に、徐々に声が戻っていく。
（……皆、暇なのかな）
　机を拭きながら、麗音は思った。
　何度も死にたいと思って腕を切りつけようとしたけど、直前で怖気づいてできなかったものだ。

∞

「でも、結局家族に後で知られちゃってね。その時は、気付かなくてごめんねって、皆に抱きしめられたよ」
「どうしていじめがなくなったの？」
「親友達がいたの」
「親友？」
　そう、あの頃は辛かったかれど、親友達がいたから乗り越えられた。
「それに、あの子達のおかげでいじめがなくなったから嬉しかったと同時に吹っ切れたの。感謝してもしきれないから、この思いを作詞作曲して渡したら凄く喜んでくれてね」
　タイトルは、『ありがとう―─ＭｙＢｅｓｔＦｒｉｅｎｄ―─』
「あっ！　それ、文化祭で！」
「うん、何か、凄い反響で……」
　照れたような笑みを浮かべ、それから麗音は希望をその瞳に乗せて友人達に宣言した。
「だから決めたわ。私、シンガーソングライターになるって！」