こどものころのおはなし｜リアクション

こどものころのおはなし

　１７　蛾から蝶へ

　今から少しだけ昔の、１２月。
　中学３年生の屋敷野梢は、寒空の下、神戸港に立っていた。

　思い出すのは、誰にも話さない、大切で寂しい思い出。

　――宇宙の星々のように光が灯る街に、女の子は住んでいました。
　女の子には、大切な親友がいました。
　眩い街の明かりに決して負けない、お月様のような人でした。
　夜の虫たちにとって月がそうであるように、女の子にとっても道標のような人でした。
　女の子は、その人の道標――お月様になろうとしました。
　だから、重い病に侵されているその人に、こう言いました。
「諦めないで、完治を目指して戦いましょうー」
　そしてこの夏。
　女の子の唯一のお月様は、病に負けてしまいました。
（私の、せいだ）
　誤った道を示してしまったからだと、女の子は思いました。
　――自分はお月様ではなく、光を求めて飛ぶ蛾に過ぎないのだ、と悟りました。

　イルミネーションの光溢れるクリスマスムードの神戸は、小さな宇宙だ。
　人々の行き交う声。
　車の音。
　船の汽笛の音。
　それらが、何光年も先から聞こえてくるような気がする。
　梢は、心を表に出すのをやめてしまっていた。その方が、きっと、誰も傷つけない。
　だけど。
“君”には未だに話を聞いてほしい。
　そんな想いを抱き、梢は遠くに見える街の光を、星空を見ていた。
　死んだら天に昇るだなんて非科学的だけれど。
　どこかに“君”がいるような気がして、梢はいつしか、空を目指すようになった。
（まずは、この寂しい小宇宙からの脱出ですねー）
　子供の頃にいた、寝子島に戻ろう。
　この時、彼女は決意した。

　――寝子島に来て、女の子は、蝶になる力を手に入れました。

∞

「うう、この時期は寒いなー」
　梢は、電波塔のてっぺん近くに座っていた。
「でも……ここならよく見えますねー。……えー、もしもし、ＣＱ、ＣＱ、見えてますか？　私は、今日も元気ですよ！　なんと、生徒会の副会長にですねー……」

　――今でも心を抉るけれど。
　このお話はハッピーエンドだと、信じている。

このページにイラストを設定する

あとがき

担当マスター：沢樹一海
ファンレターはマスターページから！

お待たせしてしまって申し訳ありません。リアクションをお届けします。

ＰＣそれぞれのカコバナ、楽しく執筆させていただきました。
今回は、カコバナシーン→青
　　　　　　現在シーン→黒
と文字色を変えてあります。

このシナリオが、皆様のキャラクター像を深める一助になれば幸いです。

ご参加いただき、ありがとうございました！

↑ページトップに戻る